失われなかったシリア代表の多様性

シリア内戦/社会
TOPSHOT - Syria's players celebrate at the end of their FIFA World Cup 2018 qualification football match against Iran at the Azadi Stadium in Tehran on September 5, 2017. / AFP PHOTO / ATTA KENARE (Photo credit should read ATTA KENARE/AFP/Getty Images)

今回紹介するのは、シリアの反政府系紙クッルナー・シュラカーが2017年10月1日に掲載したتلغراف: قصة صعود المنتخب السوري الذي اقترب من التأهل لكأس العالم لأول مرة في تاريخهです。少し長めの記事なので、2回に分けて紹介します。

反政府系紙の記事といっても、これはイギリスで発行されている「デイリー・テレグラフ」に掲載された英語記事。それをハフポストアラビア語版がアラビア語に翻訳して掲載し、さらにクッルナー・シュラカーが全文転載したものです。したがって、英語ができる方は、テレグラフの記事を読むほうが、正確かもしれません。

テレグラフ紙
The story behind rise of Syrian football team, now on the cusp of qualifying for first ever World Cup

ハフポストアラビア語版
قصة صعود المنتخب السوري الذي اقترب من التأهل لكأس العالم لأول مرة في تاريخه كما يراها المؤيدون والمعارضون لنظام الأسد

印象的なのは、6年以上にも及ぶ戦争で、国民はさまざまな形で分裂していった中、サッカーのシリア代表はいまだ、かつての多様性をもっていたシリアの特徴を有しているという指摘です。

さて、本日夜、マレーシアでワールドカップ予選アジアプレーオフの初戦が行われます。

現在のシリア代表の活躍が、長くバラバラになっていた国民の心を一つにした、という指摘は、政権側はもとより反政府側からもされています。

考えてみれば、ぼくもその典型ですが、シリア代表について語る際、スーマ選手など、最近になってチームに復帰してきたスター選手たちの活躍に目が行きがちですが、そのうしろには、戦争のさなかここまでチームをまとめ引っ張ってきた、さほど名の知られていない選手やスタッフがいるわけですね。

とくに、予選(アジア2次予選)がはじまったのは、2015年6月です。当時、シリア国内では、現在とは逆に、イスラーム過激派を中心とした反政府武装勢力が優勢で、シリア政府というか、国家は崩壊の危機に瀕していた頃だったと記憶しています。そんな時代のチームを支えてきた人たちの存在があればこその、現在というわけです。

今回の記事は、内容から考えてプレーオフの前にアップすることに意味があると思って、急いで日本語化しているのですが、間に合わず前半部分だけとりあえずアップすることにしました。後半部分では、シリア代表チームの裏側で、体制側によってなされているスポーツ選手たちに対するおぞましい行為に関するエピソードなどが語られています。こわい話。


元記事URL http://www.all4syria.info/Archive/445824

 

シリア代表 躍進の物語(1)

掲載紙:クッルナー・シュラカー/デイリー・テレグラフ/アラビア語訳:ハフポストアラビア語版
掲載日:2017年10月1日

(文中の*および見出しは訳者による)

 

TOPSHOT – Syria’s players celebrate at the end of their FIFA World Cup 2018 qualification football match against Iran at the Azadi Stadium in Tehran on September 5, 2017. / AFP PHOTO / ATTA KENARE (Photo credit should read ATTA KENARE/AFP/Getty Images)

イギリスのデイリー・テレグラフ紙は、サッカーのシリア代表に光を当てた記事を掲載した。シリア代表は、数週間前に行われたイラン戦で引き分けたことにより、史上初となるワールドカップ本大会出場権獲得に近づいている。

夢をつないだゴール

テレグラフ紙が2017年9月30日に掲載したレポートによると、シリア代表は、選手間にある大きな難題の解決に努めている。難題というのは、シリアの体制を支持するものと、反体制派を支持するものとの対立だ。それゆえ、もし2018年のワールドカップ出場を勝ち取ることに成功すれば、代表の努力は、未来を指し示す状況と生み出すことになるかもしれない。

同紙は、代表チームから離反しながらも、今年(*2017年)になって復帰した選手たちに注目している。そのなかには、イラン戦の残り数十秒でゴールを決め、ロシアへの希望を国民にもたらしたエース、オマル・スーマもいる。

9月初めに行われたイランとの試合、93分にスーマが決めたこの同点ゴールは、史上初のワールドカップ出場というシリアの夢をつなぎとめた。

まもなく、シリア代表は、ロシアで開催予定のワールドカップ2018のキップをかけて、10月5日にオーストラリアと対戦することになっている。2011年に戦争が勃発して以来、国内で国際試合を行うことが禁じられている代表にとって、これは間違いなく偉業と呼ぶべきものだ、とテレグラフ紙は報じている。

オマル・スーマ

Syria’s players pray at the end of their FIFA World Cup 2018 qualification football match against Iran at the Azadi Stadium in Tehran on September 5, 2017. / AFP PHOTO / ATTA KENARE (Photo credit should read ATTA KENARE/AFP/Getty Images)

他のどんな国でも、代表チームにこういった希望をもたらしてくれるFW選手は、おそらくいつの日か、国民的英雄と呼ばれるようになるだろう。だが、シリアの状況がかなり複雑なのだ。

28歳になるスーマは、最近5年間の大半を、避難先で過ごした。スーマが祖国の代表としてプレーしたのは2012年が最後だった。その年行われた西アジア選手権の優勝に貢献したときである。クウェートで開催された決勝戦で、彼は星が3つ入ったシリア革命旗を掲げた(*シリア国旗も同じデザインだが、星が2つしかない)。これが、その後スーマに様々な問題を引き起こすことになる最初のステップとなったのである。

スーマはこの年から現在まで、サウジアラビアのプロリーグでプレーし、代表からは切り離された時間を送った。サウジアラビアは、シリア政権側にとって中東地域における主要な敵対国なのである、とテレグラフ紙は報じている。

フィラース・ハティーブ

スーマは、代表を離反した唯一の選手ではない。スーマのチームメート、フィラース・ハティーブもその一人だ。ハティーブは間違いなくシリア最高の選手だと評されている。ハティーブは2012年、市民を空爆するアサド政権が続く限り、代表でプレーすることは決してないと表明した。

ハティーブの出身地ホムスは、ほとんどがイスラームスンナ派の住民で占められ、アラウィー派の政権に対し蜂起した最初の都市の一つである。そのホムスはすでに、バッシャール・アサド軍による容赦のない空爆にさらされていたのだ。

だが、最終的には、悲しむべき協議といわれる説得が行われ、体制側は、この最高のストライカー二人を、特例として赦免すると発表した。

ハティーブは、この発表が行われた際、「どちらにしても、1200万人のシリア国民はぼくのことを応援してくれると思います」と話した後、紛争を理由に難民となっている多くの国民のことを念頭に、こう付け加えた。「だけど、他の1200万人の国民はぼくにことを殺したいと思うかもしれません」

年俸1000ドルのプロ選手

国際サッカー連盟(FIFA)は、国際試合の際の安全面での問題などを理由に、シリア国内での試合開催を禁止している。

しかも、シリア代表は、シリア政府との外交関係を保持していたマレーシアが合意するまで、(*ワールドカップ最終予選でのシリアのホーム扱いの)試合を受け入れてくれる友好国がいないことを理由に、試合開催もあきらめていた。

FIFAは、シリアサッカーの発展のために配分されることになっている助成金の凍結を余儀なくされている。国連とEUがシリアに課している制裁のためである。テレグラフ紙によると、シリアの民間投資は最悪状態だという。

シリアのプロサッカー選手は、年俸1000ドルを得ることができれば幸運、という状況で、最高額でもおそらく3万ドルなのだという。

分裂免れた稀有な存在

代表チームのMFターミル・ハージ・ムハンマドは、テレグラフ紙の取材に、「またみんな一緒にプレーできるなんてとてもすばらしいことだね。ぼくらは小さい子のようにともにプレーしてきたのに、ここ数年間はお互い会うこともなかったんだ。他の人たちとは違い、ぼくらはお互いの違いについては気にしていないよ」

シリアでは、この国を分断したさまざまな社会集団ごとの分裂から免れたものはほとんどいない。サッカーの代表チームは(*社会集団ごとに分裂することなく)多様性を保持している稀有な例だ。

複数の民族、宗派からなるシリアは複雑な社会を映し出している。たとえば、スーマとハティーブの二人は、スンナ派イスラーム教徒であり、GKのイブラーヒーム・アールマはアサドが属するアラウィー派だ。一方、FWのマルディーク・マルディーキヤーンはアルメニア系だし、MFのターミル・ハージ・ムハンマドはギリシャ系である。

そんな代表チームの選手たちは、試合開始前、シリア国旗のもと国歌を歌うためにともに整列する。(この記事続く)

 

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