ワールドカップ予選のもっとも合理的な方式の提案

今回紹介する記事は、2016年10月6日「アルクドゥス・ワルアラビー」配信のワールドカップ予選に関するエッセイです。

「なぜワールドカップ世界予選が行われないのか?」という記事の見出しを見るだけでは何のことかわかりません。「世界予選」とはなんだ?

要は、現在のような大陸ごとで予選を行うのではなく、地理的な区分を取っ払って世界ランキングごとに世界をグループ分けした方式で行ってはどうかという提案です。これだけ交通手段が発達した現在ではそれは可能だし、なにより大陸ごとの出場枠の多少でもめることもなくなるので、よっぽど公平ではないかというわけです。

面白い案ではありますね。ふだんからヨーロッパや南米の強豪国と、真剣勝負の場をもつことができると思うと、とても魅力的な案にうつります。

しかし考えるまでもなく、非現実的な案です。移動が容易となったと言っても、たとえば日本から南米に行くのはやはりかなりの負担です。またアフリカ中南部の国で試合するというのもかなりのストレスとなるかも。経費的な面で対応できないという国もあるでしょう。湾岸諸国のようにサッカーにふんだんに予算が使える国ばかりではないでしょうから。

もちろん、このエッセイの筆者も本気で改革を提案しているのでも、おそらく現状の予選方式への不満を述べているのでもなく、たんに世界のサッカーの未来を夢想して楽しんでいるだけなのだと思います。


元記事URL:
http://www.alquds.co.uk/?p=610521

なぜワールドカップ世界予選が行われないのか?

2016年10月8日
アルグドゥス・ワルアラビー紙
ハルドゥーン・アッシェイフ

 

筆者ハルドゥーン・アッシェイフ氏(http://www.alquds.co.uk/?p=610521)

筆者ハルドゥーン・アッシェイフ氏(http://www.alquds.co.uk/?p=610521)

アラブ諸国の代表チームは、いつまでワールドカップへの切符を獲得するため喘ぎ続けるのだろうか。また、われわれは、いつまでブラジルやアルゼンチン、イタリア、ドイツと公式戦で対戦することを待ち焦がれ続けるのだろうか。こういった状況を新しい方法で変えることはできないものだろうか。

国際サッカー連盟(FIFA)は、1930年にウルグアイで第1回ワールドカップを開催することを決め、加盟する各国の連盟に対し代表チームの派遣を要請した。ワールドカップというアイデアはすばらしいものだった。だが、実施は困難だった。ヨーロッパのチームは、南米大陸にたどり着くために大西洋を渡ることになるが、その旅には、恐怖、困難以上のものがつきまとった。蒸気船を使う旅はコストがかかり、長い期間、ウルグアイまでおよそ3か月も要することになりかねない。

ヨーロッパの各連盟はどこも参加を拒否した。それを当時のFIFA会長フランス人のジュール・リメ氏が、フランス、ベルギー、ルーマニア、ユーゴスラビアの各連盟を説得し、大会はわずか13か国の参加で開催された。大会への参加は無理強いされたものだった。

今日では、世界211か国の連盟が、このサッカー界最大の祝宴に参加するため、割り当てられた32の切符をめぐってたたかいをくりひろげている。たとえ、本大会へに出場する最後に残された枠を獲得するため、アラビア湾からカリブ海まで、あるいは、1試合のため、つまりたった90分間のためにオーストラリア大陸から南米大陸までの旅をすることになろうとも(注1)

このように時代は変わった。テクノロジーと交通手段は発達した。1930年ワールドカップでは、フランス人たちは、自分たちの代表がメキシコゴールにシュートを決めたことを知るまで3日も待たねばならなかったが、もはやそんな必要はない。ジェット旅客機が距離を縮め、時間を短縮し、また、人工衛星は、すべての出来事、すべてのゴール、すべてのキックを直接ライブ放送することを可能にした。アラビア湾からヨーロッパ大陸の真ん中に向かう旅は、アジアの東へ行く旅より容易になった(注2)

今、わたしを強くとらえて離さない一つのアイデアがここにある。これについて、わたしは以前書いたことがあるのだが…通常、アジア、ヨーロッパ、アフリカなど大陸ごとで行われるワールドカップ予選は、本大会に出場するよりふさわしく、より優秀なチームをふるい分けるためのものだ。だが、かつてのような旅行や移動に伴う障害がなくなっているにもかかわらず、ワールドカップに出場するより優れたチームを選出ための世界予選が行われることがない。

こういうのはどうだろうか。まず、世界ランキング151位から211までの60チームによる予備予選を行った後、勝ち残った10チームと合わせた世界160チームを1グループ10チームからなる16のグループに分け、グループリーグを行う。このグループ分けは地理的区分によっては行わず、世界ランキングに基づいて行う。グループリーグの各1位チームは直接本大会への出場資格を得る。また、各グループの上位4チーム(グループリーグ2位から5位までのチーム)によって、本大会出場権をかけたプレーオフを行う。このようにして出場するに最もふさわしい選りすぐりの32代表チームが選ばれる。(こうすれば現在のように)各大陸ごとに与えられている出場枠数や優先権をめぐる終わりなき議論、対立が引き起こされることもなくなる。

たとえば、ブラジル、デンマーク、サウジアラビア、イエメン、タイ、アルジェリアなどが入ったグループができるかもしれない。このときのサウジアラビア人サポーターのリオやコペンハーゲンへの旅行に伴う苦労は、東京やシドニー、ソウルに行くときと比べてどのようなものになるだろうか?

彼らの予選を旅する楽しみは、通常の旅行よりも倍増したものになるだろう。そして、ワールドカップは新しく、強力なものになるだろう。

さらに、こうすれば、予選で0対27、あるいは本大会で1対10、0対8といった信じがたいスコアがくりかえされることもなくなるはずだ。というのも、(弱小チーム)のサポーターたちは、強豪チームと対戦するおそれがなくなるからだ。同様に、予選でたった1勝しただけのチームが本大会への出場資格を得るという可能性もなくなる。2006年ワールドカップ予選のマナマで行われたトリニダード・トバゴ戦で、もしバーレーンがスコアレスドローに持ち込んでいれば、出場権を得ていたということも起こらないだろう。

この大会での優勝チームは、本当の意味で世界中の代表チームのチャンピオンという称号を得ることになるだろう。…さて、このアイデアは、改革と発展に熱意を持つことで知られるインファンティーノFIFA会長の心をとらえるだろうか?

(注1)ワールドカップ予選は各大陸内で行われるが、これで出場権を得られなかったチームは大陸間で行われるプレーオフに進むことができる。

(注2)湾岸からヨーロッパまでは、東アジアに行くより近いので当たり前のように思うが、かつてのように船で移動する時代のことを考えると、湾岸からヨーロッパに向かうにはアフリカ大陸を南下しなくてはならなかったので、そういう時代と比べると近くなったという意味合いか。

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