イエメン代表の「快挙」は何をもたらすか

イエメン

今回紹介するのは、今年(2018年)3月、史上初めてアジアカップ本戦出場を決めたイエメン代表チームの話です。

シリアの現状について、「今世紀最悪の人道危機」とよく言われます。状況は、2015年からやはり戦争に突入しまる3年以上経っても収拾の道が見えないイエメンでも、同様、あるいはそれ以上にひどいようです。国際社会の関心も、シリアに比べてはるかに低いのが現実です(シリアとてそう高い関心が寄せられているとはいえない)。

そんななか、今回のサッカーイエメン代表の快挙は人びとにささやかな喜びをもたらしているようです。ただし、2017年、ワールドカップ予選でのシリア代表の快進撃が、反政府支配地域の住民をも巻き込んで、国中を熱狂させたようなことにはなっていないのは、それだけ、国中が傷ついている現実があり、サッカーどころではないということなのだと思います。

そのせいか、今回紹介する記事自体、見出しで大きく出ているわりには、本文はいまひとつ盛り上がりのないまま終わっています。

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イエメン代表 アジアカップで祖国の未来に希望を与える

掲載紙:シャルク・アウサト
掲載日:2018年4月19日

(*は訳注 小見出しは訳者によるもの)

アデン(シャルク・アウサト)

史上初となるイエメンのアジアカップへの出場権獲得は、3年以上続く破滅的な戦争のさなかにある、イエメンの人びとの心に希望の光をともした。

この歴史的な快挙は、アジアおよび世界の舞台において、代表レベルでもクラブレベルでも、ほとんど栄冠を勝ち取ったことがないこの国のサッカーファンたちの気持ちを一つにした。

代表の快挙笑みを呼ぶ

イエメン代表は、今年(2018年)3月27日に行われたアジアカップ予選のネパールとの最終戦に勝利し、2019年にUAEで開催される本大会への出場権獲得を達成した。予選では他にフィリピン、タジキスタンが同じグループに属していた。

イエメン代表は、近隣諸国の中で最弱とみなされている。事実、1970年にガルフカップ(湾岸協力会議加盟に加盟する6か国に加え、イラクとイエメンの計8か国で争われる大会)が開催されるようになって以来、イエメンはそこで1勝も上げることができないでいる。

イエメンのメディアは、代表チームが試合に負けるたびに、「善戦」と評するのが常だった。

代表と世界のサッカー事情を継続的にフォローしているサポーターのひとり、アハマド・サバーヒーさんは、「代表は、善戦することにより人びとを一つにまとめているのです」と話し、今回のアジアカップ出場についてこう続ける。

「イエメン人はみんな、祖国の代表チームをきっと応援し続けるはずです。ぼくらは、代表がイエメンの人びとの苦難をやわらげてくれるようなプレーをすることを期待しています」

一方、サーリフ・ハンシュさんは、戦争の真っ只中で出場権を獲得したイエメンサッカーの快挙について、次のようにみている。

「今の悲劇をわずかでも忘れ、喜びを必要としている人びとに、代表は、笑みをもたらしてくれると思います」

分裂しなかったチーム

イエメンは数年前から、国際的に承認されている政権軍と、フーシ派(*「アンサ−ル・アッラー運動」が組織名)率いる反政府勢力の軍隊との間の内戦に見舞われている。フーシ派は、2014年9月以来、首都サヌアとその他の地域を支配下に置いている。

この戦争はまた、国連によると、世界最悪の人道危機も引き起こした。数百の学校が閉鎖されてしまった。破壊されたり、あるいは、兵舎や避難民のための収容施設に転用されてしまったからだ。

スポーツもまた、この戦争による被害を免れなかった。何十ものスタジアムは破壊されたり、軍の駐屯地にされてしまった。また、様々なスポーツの大会は中止されている。

イエメン代表は、アジアカップ予選での遠征では、ずっとドーハをキャンプ地とした。というのも、代表メンバーの多くがカタールのクラブでプレーしており、近代的な設備や施設が整っているからだ。

サヌアでサッカーコーチをしているアブドゥルサーリム・サアディーさんは、代表がアジアカップの出場権を獲得したことは、「選手の才能を考えれば当然の結果です」と話す。

同時にサアディーさんは、この快挙達成をもたらした最も重要な要因について「代表チームがまだ政治的理由で分裂していなかった」ことを指摘した。

戦火のなかの選手選考

フル代表が出場権を獲得するより前、育成年代ではU16代表が、この年代のアジアカップ(*AFC U-16選手権)の本大会出場を決めている。同大会は今年(*2018年)9月初旬から、マレーシアで開催されることになっている。

U16代表の選手たちは、サヌアでのキャンプに入る前、国内のいくつかの場所で合流し練習を行っている。そこで、代表のスタッフは、危険に満ちた状況のなか、各地でトレーニングを行うことを通して、地元の才能ある選手たちを発掘している。

トレーニングはアデン(*イエメン南部にある同国主要都市のひとつ)でも行われた。アデンでは、数年にわたって戦争により中断していたスポーツの各種大会の開催が、最近になって、復活し始めた。戦争当初は、フーシ派がアデン市南部のほとんどの地区を制圧していたが、その後政府軍が奪還している。アデンのサッカー関係者らは、定期的に地元での大会を開催や、戦争で破壊されたスタジアムの修復に努めている。

アデンのスポーツ団体責任者のアハマド・フセイン・ホスニーさんは、次のように話す。「戦時下ではありますが、スタジアムなどスポーツ施設とともに破壊された人びとの暮らしや精神面が回復するよう、われわれはできるだけのことをしようとしています」

最近修復が行われたあるスタジアムのピッチ上では、青いユニフォーム着た若い選手たちの試合が行われていた。スタンドのグリーンのプラスチック製シートには、数こそ少ないものの観客が、歓声をあげたり、拍手をしたりしている。

今年(2018年)1月、政府軍と反政府軍との間で流血の衝突が発生した。国内では戦争やこういった戦闘があるものの、湾岸最貧国のサッカーはまだ死んではいない。とはいえ、その輝きの一部は失われているが。

サポーターのひとり、ファーディル・ウィサービーさんは、今のイエメンサッカーは、「近隣の湾岸諸国のような存在ではありません。それは、イエメン社会において、日常生活を営む土台に対する不安があるからだと思います」と話している。

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