イラクのバスラという町では今、「サッカー特需」への期待で沸いているそうです。今回は、イラクで長く続いていたFIFAによる国際試合(公式戦)開催禁止措置が今年(2018年)3月に解除されたことに関する記事です。
サッカーツーリズムという言葉があります。サッカー観戦のために訪れた町々で、サポーターらが試合観戦だけでなく、宿泊したり、レンストランや飲み屋も入り、ついでに観光をしたりして楽しむことを指すものだそうです。
国内リーグが盛り上がっている国では、2週間に1回でも、毎回数万人もの人々が他市からやってくることになるので、その経済効果は相当なものだと推定されます。
イラクでは今年に入って、国内で国際親善マッチが開催され、いずれも何十年も国際試合観戦に飢えていたサポーターらが各地から大勢つめかけ、おおいに盛り上がったようです。FIFAによる国際試合禁止措置が解除され、今後は親善試合だけでなく公式戦も行われることになるので、盛り上がりにはさらに拍車がかかることでしょう(ただし、公式戦は当面なさそうなんですが)。
現時点では国際試合開催が認められているのは、バスラ、カルバラ、アルビルの3都市に限定されています。その一つバスラでは、3月に開催されたイラク、シリア、カタールの各代表チームによる「国際親善大会」の成功をうけ、今後もサッカーの試合をビジネスチャンスに生かそうという機運が高まっているとのことです。
日本では、イラクというと危険な国というかなり強いイメージが定着してしまっていますが、記事を読むと、地域によっては、かなり違ったレベルにまで治安は回復している現状を知ることができます。
今回の記事。明記されていませんが、おそらくAFPの配信記事だと思います。本ブログではずいぶんAFPの記事を紹介しています。おそらく一番多いのではないでしょうか。ある程度の文字数で、取材もしっかりしている内容の記事を見つけてみると、AFPだったというパターンが多いです。なるべく、純アラブメディアの記事に注目していきたいと思っているのですが、いい記事に出会うことってあまりありません。
元記事URL:
サッカーで商機呼び込むイラク
掲載紙:スィハーファ・ムスタキッラ通信社
掲載日:2018年3月28日
(文中*は訳注 小見出しの一部は訳者によるもの)
【ムスタキッラ】AFPは、イラクは今後サッカーを通して新たなビジネスチャンスを得るだろうと報じた。同記事によると、イラクの「経済の首都」バスラでは、サッカーの国際試合の公式戦が解禁されたことにより、活気を取り戻しているという。
「比類なき成功」
「ナツメヤシの幹」の名で知られるバスラ国際スタジアムは、イラク南部における、サッカーの国際試合の公式戦開催会場とされている。バスラ県の担当者は、試合では6万5000人の収容能力のあるこのスタジアムがサポーターでいっぱいになれば、市の経済も潤すことになると期待している。バスラは(カルバラ及びクルディスタン地域の首都アルビルとともに)、公式戦開催が(*FIFAによって)許可された国内3都市の一つだ。
3月17日(*2018年)の国際サッカー連盟(FIFA)のこの決定前の2月28日、バスラ国際スタジアムは、イラク対サウジアラビアとの国際親善試合を観戦する数万人ものサポーターですし詰め状態だった。サウジアラビアのフル代表が、イラク国内で行う約40年ぶりとなる試合は、「比類なき成功」をおさめたと評されている。
この試合は、昨年(*2017年)FIFAがイラク国内で国際試合開催の禁止措置を緩和する決定を行ったことを受けて、バスラで開催される一連の親善試合の一つだった。FIFAは昨年、国内3都市において、親善試合に限り国際試合開催を認める措置を取っていた。
サッカーで経済活性化
複数の当局者によると、バスラ・スポーツセンターの中にあり、イラクの地図の形をした人造湖に囲まれた場所にある「ナツメヤシの幹」は、バスラの商業施設や地元スークに活性化をもたらす訪問客の目的地となっているという。
バスラ県のアスワド・アイダーニー知事は、AFPの取材に対し、「市が開催しているサッカーの試合は、地元の経済環境の活性化に大きな影響をもたらしています。とりわけ、ホテルやレストラン、商店などのでは現在、めざましい賑わいを見せています」と話す。
AFPによると、バスラ国際スタジアムは2013年、総工費6億ドルをかけて建設された。
満員のホテルと増加する訪問客
バスラは、バグダッドから550キロ離れているため、通常、訪問客は、首都に帰る前にバスラ市内で宿泊したり、休息することになる。このため、地元関係者によると、(*試合があるときは)ホテルはフル稼働することになり、部屋を確保できず予約客を断らざるを得ない状況だという。
現在、イラク代表とシリア、カタール両代表チームによる「国際親善大会」が開催されているバスラでは、同様の状況が市内で見られている。
今週水曜日(*2018年3月25日)に始まったこの大会は、イラクに試合開催能力があることを示す機会になると見られている。同時に大会は、サッカーがバスラ県の経済収入増をもたらす証明にもなっている。
バスラのシェラトンホテル支配人タウニー・ディーブ氏はAFPの取材に対し、「サッカーの試合は大きな収益となります。試合のある日の市内のホテルは、お客さんを収容しきれない状況になります。おそらく、この事実は新たなホテル建設のため投資を促すことになるでしょう」と話す。
バスラ・ビジネスオフィスのカーシム・サーディー副所長によると、「ふだんのバスラのホテルの稼働率は約50%ほどなんですが、スポーツのイベントがあるときは100%になります。だから、(今回の大会が開催される期間は)ビジネスのためにやってくる客の滞在場所を変更しなければならなくなるほどなんです」という。
影響は交通機関にも及んでいる。イラク航空は急きょ、大会期間中、週2便の増便を行っている。
鉄道でも、南部地域鉄道のハーディ・シャラール所長によると、「3か国による大会開催期間、バグダッド・バスラ間の便を毎日増便しています。通常、この区間は毎日1便ですが、臨時に4便運行する態勢を取っています」と言う。1便につき1500人輸送することができるという。
ガルフカップ招致
イラク当局者によると、「国際親善大会」第1戦となったイラク対カタール戦では、イラクの他県からやってきた1万人の観客のうち、7000人以上が列車を利用したという。
これら訪問客は市内各地のスーク、とくに人気の観光スポット老舗のフヌード・スークで記念の商品やお土産を購入している。
アイダーニー知事は、「この大会の開催の結果もたらされた経済的効果は、将来、様々なスポーツイベントを誘致することに結びつきました」と述べ、こう続ける。
「われわれは、バスラでの第24回ガルフカップの招致活動に取り組んでいます。この湾岸地方で2年に1回開催されるサッカーイベントを招致できれば、経済の活性化は強化されることになるでしょう」
イラクの当局者たちは、昨年(2017年)12月から今年1月にかけてクウェートで開催された23回大会に続く、次のガルフカップ招致への意欲を隠さない。23回大会はカタールで開催される予定だったが、クウェートがFIFAからの制裁措置が解除されたことを受け、同国に開催権が移譲された。カタールは開催の移譲を受け入れたが、次回大会を開催する優先権が自分たちにあると主張している。ただし、最近の複数のイラクメディアによると、カタールはイラクのために次回大会の開催権を放棄する用意があると報道されている。
インフラ整備が不可欠
アイダーニー知事によると、大規模な大会を招致する一方、バスラ当局者は「投資を呼び込み経済発展のプロジェクトを増やすこと」をイラク政府に促すため、開催する試合数の増加を期待しているという。
バスラ経済界の関係者らは、より多くのイベントを開催するためには、市内の観光施設の充実の必要性を強調している。とりわけ市は、資金不足に悩まされており、石油を算出する国内有数地帯にふさわしいだけのインフラが整備されていない。
バスラ・ビジネスオフィスのサーディー副所長は、「バスラには、より多くのホテルやレストランが必要です。これまでの小さな大会では大勢の客を迎えることはありませんでした。ガルフカップを開催することになったら、(*現状の受け入れ態勢のままだと)どういうことになるかわかりません」と話している。