エジプトサッカー史上最高のスター、アブトレイカの「テロリスト」疑惑に関する記事2弾目です。2017年1月にテロリスト名簿への登録が発表された以後の動きを伝える記事を追ってみました。
断片的で、互いに重複する内容で、全体像がよくわかりません。時系列でいうと、
2011年アラブの春。
2012年、ムスリム同胞団のムルシー政権誕生。
2013年 ムルシー政権崩壊。同年ムスリム同胞団、テロ組織に指定される。
2015年5月、裁判所、同胞団への資金提供を理由にアブトレイカの資産没収。
2016年6月、資産没収措置を取り消す別の司法判断。
2017年1月10日、行政裁判所も資産没収取り消しの判断を支持。1月12日、アブトレイカをテロリスト名簿に登録。
2018年4月28日、最高行政裁判所、資産没収取り消しの判断を支持。4月30日、アブトレイカを再度テロリスト名簿に登録。7月4日、最高裁、テロリスト名簿記載問題で審理のやり直しを命じる。11月12日、アブトレイカ、脱税の罪で懲役1年、罰金71万エジプトポンドの判決。
ということになります。司法や政府の判断が二転三転しているという感じで、なんでこんなややこしいことになっているのか、わかりません。そして、2018年、アブトレイカは有罪判決を受けるのですが、罪名は脱税。同胞団活動への資金提供とかテロ活動とかとは直接関わりのないものでした。しかも罰金が少額なので、おそらく大した事件ではなかったのだろうと思います。
ネットでアブトレイカの動向を伝える記事を検索してみても、テロリストに指定された以後も、そして有罪判決を受けた以後も、サッカー解説者として大ぴらに活躍しているようで、また誕生日にはFIFAの公式のツイッターアカウントでお祝いなんかもされています。どうも実質的には何の影響も出ていないようです。脱税で懲役刑を食らっているはずですが、まだ上級審で審理が続いているのかどうか、アブトレイカが服役したというニュースは出てきません。
写真説明:アフリカネイションズカップ2015の決勝戦、コートジボワール対ガーナ戦で、優勝トロフィーを運ぶアブトレイカ(右)とフレデリック・カヌーテ。
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スター選手の座から「テロリスト」へ!
掲載紙:アフバール(レバノン)
掲載日:2017年1月19日
URL:https://www.al-akhbar.com/Sport/225043/أبو-تريكة-من-نجم-الى-إرهابي
カイロ刑事裁判所が、「テロ」組織および「テロリスト」名簿に、元スター選手ムハンマド・アブトレイカの名を記載したと突如発表した。裁判所の発表によると、アブトレイカは非合法のムスリム同胞団に対し資金提供しているとされているが、この決定は、「ハートの王子」の異名をとるこの元スター選手に対する広範な連帯運動を引き起こす事態となっている。
2013年に現役引退したアハリーの元FWアブトレイカ(38歳)は、エジプトとアフリカにおける最もすぐれた選手の一人といわれる。アフリカ最優秀選手に4度選ばれ、アハリーの2006年、2010年のアフリカチャンピオンズリーグタイトル獲得に貢献した。また、2010年の大会はけがのため欠場したものの、2006年、2008年のアフリカネイションズカップ(*ユーロやアジアカップに相当するアフリカの大会)も獲得している。
アブトレイカのテロ名簿記載は、ガボンで開幕したアフリカネイションズカップのエジプトの初戦マリ戦と同日に発表された。試合はスコアレスドローに終わっている。
裁判所報道官によると、アブトレイカの名前は、非合法のムスリム同胞団に資金提供したことを理由に、「テロリスト」名簿に記載されたという。エジプト政府は2013年、同胞団を「テロ組織」に指定している。2015年に制定されたテロ対策法によると、テロリスト名簿に記載された者は、国外渡航の禁止、パスポートの没収、資産の凍結などの制裁が科せられることになっている。
一方、アブトレイカは、2012年の大統領選挙の際、同胞団から立候補し当選したムハンマド・ムルシー大統領(同政権は1年後軍部により打倒)への支持を表明していた。
アブトレイカの弁護士ムハンマド・ウスマーンは、今回の刑事裁判所の決定は、「法に反するもの」だと見ている。というのも、「アブトレイカに対し事前に何の刑事判決もくだされておらず、また、司法による捜査も召喚、聴取も行われていない」からだ。ウスマーン弁護士は、「われわれは60日以内に最高裁判所に上告するなど、法の手続きに乗った対応をすることになる」と言っている。
裁判所はすでに、2015年5月、同胞団への資金提供を行ったとしてアブトレイカの資産を没収した。当時アブトレイカは資金提供の事実を否定していた。ところが、2016年6月、資産没収措置を取り消す別の司法判断がなされた。今年(*2017年)1月10日、行政裁判所もこの判断を支持した。だが、ウスマーン弁護士よると、当局はこの没収取り消しの措置を「履行する責任を果たしていない」という。
今回の新たな展開は、ツイッター上で、「#アブトレイカは犯罪者ではない」というハッシュタグが拡散するなど、アブトレイカに連帯する広範な動きが湧き起こすことになっている。元エジプト代表FWのアフマド・ヒサーム(ミド)は、自らのツイッターに、「われわれはみんなで彼のことを守るつもりです。彼の潔白が証明されるまで彼のことを支えていきます」と投稿した。
アブトレイカ、再びテロリスト名簿に記載
掲載紙:マヤーディーン(AFP配信)
掲載日:2018年4月30日
URL:http://www.almayadeen.net/news/sports/875455/بقرار-قضائي—-أبو-تريكة-على-قوائم-الإرهاب-مجددا
エジプトの裁判所は4月30日(*2018年)、同国サッカー界のレジェンド、ムハンマド・アブトレイカの名前を5年間にわたり、再びテロリスト名簿に記載した。エジプトの裁判所関係者は、AFPの取材に対し、「今回の措置は新たな証拠と事実に基づいてなされたものだ」と言う。
一方、最高行政裁判所は4月28日(*2018年)、アブトレイカの資産没収決定を取り消す1審の判断を継続する決定を行っている。
元アハリー所属でエジプト代表でも活躍したアブトレイカは、現在国外に居住している。昨年(*2017年)1月、ムスリム同胞団活動への関与を理由に、政府のテロリスト名簿に名前が記載された。エジプト当局は2013年、同胞団をテロ組織として認定している。
テロリスト名簿登録問題でアブトレイカの申し立て受理
掲載紙:マスル・ヨウム
掲載日:2018年7月4日
URL:https://www.almasryalyoum.com/news/details/1304979
エジプトの最高裁は7月4日(*2018年)、元エジプト代表でアハリーに所属していた元スター選手、ムハンマド・アブトレイカとその他の被告1537人が行っていた、テロリスト名簿記載問題での上告の申し立てを受け、刑事裁判所で審理をやり直す決定を行った。
カイロの刑事裁判所は、証拠書類をもとに、1538人を政府のテロリスト名簿に登録する決定を行っていた。登録された中には、ムハンマド・アブトレイカをはじめ、実業家のサフワーン・サービト、ジャーナリストのムスタファ・サクルの他、解任された元大統領ムハンマド・ムルシー、ムスリム同胞団団長ムハンマド・バディーウらの名前も含まれている。
カイロの刑事裁判所は昨年(*2017年)1月12日付けで、ムスリム同胞団をテロ組織名簿に登録する決定し、同胞団の資産を管理する委員会によって、資産を没収する個人の名前の登録も行ったことを公表した。テロリスト名簿への登録期間は3年間。
アブトレイカに懲役1年の判決
掲載紙:フッラ
掲載日:2018年11月12日
URL:https://www.alhurra.com/sport/2018/11/12/محكمة-مصرية-تقضي-بسجن-أبو-تريكة
エジプトの裁判所は11月12日(*2018年)、元サッカー選手のムハンマド・アブトレイカに、脱税の罪で懲役1年、罰金71万エジプトポンド(*およそ13万円)の有罪判決を言い渡した。
エジプトの検察は、2008年から09年の期間、脱税を行ったとしてアブトレイカを起訴していた。また、当局は2015年3月、ムスリム同胞団に対する資金提供の容疑で、アブトレイカが所有する観光会社の自身の株式を没収している。同じ月、株式没収措置に対するアブトレイカの異議申し立てを却下した。アブトレイカはその数日後、発表した声明で、同胞団への資金提供について否定している。
7月初旬、最高裁は、「テロリスト」名簿にアブトレイカを登録した裁判所の決定を取り消す判断を示している。しかし、別の裁判での決定を根拠に、アブトレイカの名前は名簿に残されたままである。