いまだ戦争中のシリアですが、トップリーグだけでなく、下部リーグも困難を抱えながらも運営され続けています。シリア国内のトップリーグは、シリアプレミアリーグという名称で行われ、それが日本のJ1に相当し、J2に相当するのが1部リーグ。今回紹介するのは、1部リーグの混乱ぶりに関する記事です。
現在リーグは佳境を迎えています。ところが、ぼくがずっと応援しているジハードSC(本拠=カーミシュリー)は劇的な形で2次ラウンド進出を決めたというのに、2次ラウンドが開幕する直前になって、参加を辞退してしまいました。財政難が主な理由のようです。また、1次ラウンド中にもヒラフィーン・ハラブ(アレッポ)も同様の理由でリーグから撤退しています。
そして、1次ラウンド南部地区でグループ首位で2次ラウンド進出を決めたはずのキスワSC(ダマスカス郊外県キスワ)の場合は、どうも選手登録に関して問題が生じていたようで、失格となってしまっています。いったいこのクラブに何が起こったのか気になって調べていたのですが、ぼくの調べ方が未熟なのだと思いますが、はっきりした記事を見つけることができません。
以下紹介する記事は、唯一それらしい記事です。明確にはわからないのですが、おそらく、キスワが本来契約できない選手と契約し、別の登録名を使ってリーグ戦に出場させていたとされているようです。これをライバルチームが問題視し、サッカー連盟に告発した結果、キスワは失格となってしまったと思われます。ただし、今回紹介した記事は、サッカー連盟の最終判断が下される前の時点のもので、キスワ側は、もし失格となったら徹底的にたたかうと息巻いています。
さて、2019/20シーズンの1部リーグは全24チームで構成されています。シーズンは3ラウンド制で行われています。
1次ラウンド:24チームを12チームずつ南部地区、北部地区に分け、さらに各地区6チームずつの2グループに分けます。1次ラウンドは6チームによるリーグ戦です。一応ホーム&アウェー方式が原則のようですが、治安面、軍事面の理由からホームゲームを地元で開催できないチームも多々あります。各グループ上位2チーム、南北合わせて計8チームが2次ラウンドに進出します。
2次ラウンド:南部、北部地区ごとに4チームによるリーグ戦を行います。ここでも上位2チームが最終ラウンドに進出。
最終ラウンド:南部地区1位と北部地区2位。南部地区2位と北部地区1位の各チームが対戦し、勝ったチームが来シーズンにプレミアリーグ昇格を果たす、というシステムです。
キスワSC サッカー連盟裁定の内幕を暴露
掲載紙:バアス(シリア)
掲載日:2020年5月19日
URL:http://newspaper.albaathmedia.sy/2020/05/19/نادي–الكسوة–يكشف–خبايا–قرار–اتحاد–الكر/
(小見出しの一部は訳注 *は訳注)
シリア1部リーグの試合でキスワSCがある選手を出場させていることに対し、シューラSC(*本拠ダルアー)、ヤクザSC(*デリゾール)、サナマインSC(*ダルアー県サナマイン、2部リーグ所属)が異議を申し立てている問題は、近日中に新たな展開を見そうだ。
シリアサッカー連盟および関係委員会は、同選手が出場した全試合をキスワの敗戦扱いとする旨発表した。しかし、この裁定によると、1部リーグに残留、2部リーグへ降格するチームの帰属など、リーグのチーム編成を変更することとなるが、(*関係者からの)必要な弁明の機会も与えないなど法的根拠に欠くものだった。
キスワの広報担当フセイン・バヤーディーは「バアス」の取材に対し、「クラブとして権利を行使するためにとるべき一連にステップがありますが、われわれが取るべき行動ははっきりしています」と強調する。
異議申立てと上訴
バヤーディーは、クラブは(*連盟の裁定に対する)異議申立てと上訴のための書面を今週日曜日(*2020年5月17日)に連盟に提出したことを明らかにした上で、こう話す。
われわれは権利に基づき、連盟の今回の裁定に対し、異議申立てと上訴を求めました。上訴を審議する委員会がどのようなメンバーで構成されるのか、今のところわれわれは知りませんが、われわれが提出した書面の内容には正当性がありますし、詳細なものです。したがって、これらは客観的に審議すればいかなる委員会でも、われわれが今回の件について断じて過ちをおかしていないことを理解してもらえると思っています。
先週末に、(*サッカー連盟によって)発表された裁定は、規約や法律に基づくものではありません。それどころか、差別的でやっつけ仕事のような決議といったものです。とくに、われわれはすでに、連盟の二人の委員を通じて連盟側に事実を示していますが、両委員とも当該選手の法的な正当性について確認しています。
(*先週末に)連盟が発表して裁定結果は、当該選手は別名を使って(*不正に)リーグ戦に出場した、とのサナマインSC会長のテレビ番組での発言に基づいたものです。
クラブ側の反論
バヤーディーはクラブが上訴の根拠とする新たな点についても次のように語った。
われわれは提出した上訴書面でいくつかの補足的主張を行っています。たとえば、当該選手が本名で試合に出場していることを示す「記録」です。これはサッカー連盟が公的に認めている記録です。
また、この記録は、当該選手が(*それまで所属していた)クラブから放出され、(*他クラブに移籍する条件を)与えられた選手であることも明らかにしています。基本的に、サッカー連盟は、当該選手が今シーズンどのクラブにも所属していなかったことを把握していることになります。したがって、当該選手は、自由にどのクラブにも移籍する選択権を持っていたわけです。これは、八百長をする余地などないことを示しています。
これらの論点は、(*サッカー連盟が上訴委員会で新たな)裁定を発表するにあたって、考慮されるべきものです。われわれは、選手問題委員会、規律委員会でなされたような、(*特定人物からの)委員会への圧力や影響力の行使がなされないことを願っています。クラブの権利の剥奪という不公正な裁定は事態の重大化を招くことになるでしょう。それは受け入れがたいことであり、われわれは沈黙することはないでしょう。
サッカー連盟事務局長の圧力?
キスワSCの会長は、裁定の発表の協議の際行われた事実についてこう指摘する。
われわれは(*連盟の)選手問題委員会メンバーの何人かと連絡を取り合っています。メンバーの中には、今月6日(*2020年5月6日に裁定が行われた)の会議には出席しなかったと言っているんですが、その何人かは、連盟規約の10条のことなどまったく聞いたことがなかったと強調しているのです。10条というのは、8月15日以降、いずれのクラブからも獲得リストに登録されなかった場合、その選手は自由に移籍できると規定した条文です。
また、最も重要な点は、サッカー連盟事務局長が(*裁定を行った)委員会に影響力を持っているという事実です。事務局長は、会議のさなか、4回も委員会議長に連絡をとっていたのです。そして、4回目の連絡をとった後、会議がまもなく終了することを知るや、協議の内容を把握し、裁定結果の発表を行うことを要求するため会議室に入り込んできたのでした。
上訴委員会人選の問題
いずれにしろ、複数の情報筋が「バアス」紙に語ったところによると、上訴委員会の審議は明日(2020年5月20日)行われる予定だが、早々に結論が出ることがないだろうと見られている。とくにこの審議の場では、おそらくそれぞれの見解のヒアリングと、資料を間近に精査するため、この件での各当事者が出席することになっているからだ。
だが、大きな問題なのは、特別の理由により同委員会のメンバーに任命された一部のメンバーの謝罪に関する漏洩が明るみとなる中、上訴委員会はどういったメンバーによって構成され、だれがトップを務めるのかということだ(*この文章意味不明。1回目の裁定の審議の内幕がキスワ側に漏れたことを指しているのだと思うのですが、はてどうでしょう)。