中東地域の国内リーグの中で、シリア・プレミアリーグの人気はトップクラスだと思います。世界あるいはアラブから有名選手、有名監督が集まっているカタールやサウジアラビアと違い、現在シリアでは外国籍の選手登録が認められていません。なので集客能力がとくだんに高いスター選手がプレーしているわけでもないのです。
それでも毎試合、スタンドをサポーターたちによって満杯にするクラブはいくつもあります。長く続く戦争中であることを考えれば、これは驚くべきことだと思います。
ところが、そのシリアのクラブは、アジアチャンピオンズリーグに出場することが、ひさしく認められていません。今回紹介する記事は、その辺の事情に関するもの。「イナブ・バラディー」という反政府系ネットメディアに掲載されたものです。
記事では、参加できないのは、リーグ運営あるいはサッカー(スポーツ)界全体が、政権側から干渉されているからだと、結論付けています。ただし、具体的な証拠を挙げて結論を導いているわけではないのが、もどかしいというか隔靴掻痒(かっかそうよう)といったところです。
干渉があるのはおそらくそのとおりだと思いますが、それより、記事中あるクラブの広報担当者が言うように、財政的な面が大きいような気がします。
というのも、シリアにおいて政権がサッカーなどスポーツに干渉するのは、今に始まったことではなく、戦争が始まるずっと以前から行われていたことだと思うからです。なのに、10数年前まではシリアのクラブはACLに参加できていたわけで、今になってAFCが急に政権の干渉を理由にシリアを大会から締め出すのって、理屈に合わないんじゃないでしょうか。
ま、理由はともかく、シリアのクラブがチャンピオンズリーグをたたかい、戦争前のように日本のクラブと対戦するようになれば、日本でもシリアのサッカーに対する関心が少しは高まるはずなので残念です。
(下の写真:2020年のAFCチャンピオンズリーグ決勝でイランのペルセポリスを破って優勝した韓国の蔚山現代)
シリアがアジアチャンピオンズリーグに12年間参加できない理由
掲載紙:イナブ・バラディ
掲載日:2021年1月31日
URL:https://enabbaladi.net/archives/454022
(小見出しの一部は訳者によるもの)
アジアにおいて最も重要な大会、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)へのシリアのクラブの不参加が続いている。
リーグへの政権の干渉
シリアのクラブは、なんらかの制裁の結果、不参加となっているわけではない。そうではなく、「大会の参加条件を満たすことができない」ためなのだ。そのため、シリアの各クラブは「AFCカップ」というACLよりランクが落ちると言われる大会に参加している。
アジアサッカー連盟(AFC)が定める参加条件で代表的なものは、各国のリーグ運営が当局から干渉を受けていないこと。また、各クラブが試合の挙行、選手の移籍、広報、財務に関して円滑に遂行できる体制を備えていること。リーグが選手の移籍に関する部門を有し、シリアサッカー界に欠落しているプロリーグ運営に関わるその他の条件をクリアしていることなどである。
リーグへの政治介入
こういった諸条件は、クリアすることがきわめて難しいというものではない。だが、シリアは当然のことながら、事情を異にしている。
シリアの各クラブは、2008年から現在に至るまで、AFC主催大会の中で、最も重要なこの大会に参加することができないでいるのだ。
参加不参加に影響を与えている条件の中で最も重要なものは、シリアのクラブチームあるいはスポーツに対して政府が干渉していることである。干渉はとくにシリアサッカー連盟やシリアスポーツ総連盟を通じて行われている。AFCはクラブに対して、ヨーロッパ同様、当局の干渉から完全に独立していることを求めている。
失敗したクラブ側の試み
ワフダSC(*本拠地ダマスカス。2019/2020シーズンではカップ戦で優勝)とフッティーンSC(*同ラタキア。リーグ戦3位)の両クラブは2020/2021シーズン、ACLへの参加を認められるよう働きかけを行った。
だが、フッティーンの申請は却下され、一方、ワフダはACL参加の申請を取り下げ、AFCカップへの参加申請を行うことを選択した、とワフダSCの広報を担当するクタイバ・リファーイーはYouTubeチャンネル「ラトゥフィー・プレス」(今年1月27日配信)の取材にこたえている。
リファーイーによると、両クラブのACL参加の申請(*の取り組み)は弱いものではなかったが、双方とも求められている大会への参加基準、とくに財務面での条件をクリアできなかった、と言う。
フッティーン側は、このリファーイーの指摘についてコメントしていないが、これより前、同クラブの監督フセイン・アフシュは、同じYouTubeチャンネルで、実際のところ、クラブはACL参加の申請を行ったと話している。
「クラブは準備万端整えて申請に向けて手を尽くし、AFCに申請をしたのですが、却下されてしまったのです。クラブはこの12年間、何度も申請をしてきましたが、定められた基準を満たしていないとして、いずれも却下されています」(*ACLの各国リーグの出場枠は事前に決められており、直前になって申請したとしてもどうにかなるもんでもないと思います。なので、この辺の事情はよくわかりません)
と言うわけで、今シーズンのワフダは、昨シーズンリーグチャンピオンのティシュリーンSC(*本拠ラタキア)とともに、カップ戦優勝チームとしてAFCカップに参戦することになっている。
AFCの参加条件
AFCの参加条件は、クラブの独立性を最も重視している。クラブは、政権による直接的な干渉はもとより、その国のサッカー連盟、あるいはその上部組織であるスポーツ総連盟などを通じた政権によるいかなる干渉からも独立していることが必要となる。
その他、クラブは、クラブ所有のスタジアムや専用の銀行口座、流動資産を所有していなければならない。もちろん、クラブは、湾岸諸国であろうとイランであろうと、あるいは最近ACLへの出場が認められたヨルダンのワフダートであろうと、こういった条件をクリアしている。
AFCが定める主な条件は以下のとおり。
1 前シーズンの国内トップリーグの構成チーム数が12を下回らず、試合数は21試合を下回らないこと。またチームの年間試合数がシーズン全体を通して33試合に達していること。
2 リーグ、カップ戦、およびプレシーズンマッチを含めたサッカーシーズンが10か月続くこと。トップリーグの期間は8か月以上あること。リーグ戦はホームアンドアウェー方式で行うこと。
3、4略
5 試合の入場料が無料でないこと。2012年以降の平均入場者数が5000人を下回らないこと。
6 リーグの運営に政府が干渉しないこと。リーグはその国のサッカー連盟に属し、法人であること。また、リーグは、試合の挙行、選手の移籍、広報、財務に関する部門を有すること。
7、8、9、10 略
チャンピオンズリーグに参戦したクラブ
AFCチャンピオンズリーグへのシリアのクラブチームの参加は、アジアに向かって踏み出す大きなステップとなっているが、戦績は成功と失敗の間で揺れ動いている。
カラーマはその黄金時代にあたる2006年から2009年にかけて同大会に出場し、唯一、アジアの他の強豪クラブとともにその名を刻むことに成功している(*2006年の大会は準優勝)。
シリアとアラブのシリアサッカーファンは、今も当時のカラーマの選手たち、ジハード・フセイン、フセイン・アッバース、ファワーズ・マンドゥー、サントス(ブラジル)、アーティフ・ジュニヤート、ムスアブ・バルフースといった名を記憶している。
一方、ワフダ、ジャイシュ(本拠ダマスカス)、イッティハード(*同アレッポ)も過去参加経験があるが、1次リーグを突破することができておらず、これといった成績はない。