シリア国内の2大タイトルと言えば、多くの国と同様、プレミアリーグとシリアカップです。シリア国内最後の反体制派の拠点と言われる北西部のイドリブでも、独自に「シリアカップ」という大会を開催することになったようです。
反体制派がまだ勢いを保持していた頃、イドリブを中心に「シリアリーグ」を実施したり、「シリア代表」を結成し、FIFAに認可を求めるなどの動きがありました。しかし、戦況の変化により、ここ数年は同地方では、サッカーに限らず競技の大会自体行われなくなっていたようです。
幸か不幸か、イドリブ地方、あるいはトルコ軍が占領しているアレッポ県北部のトルコと国境を接する地域をめぐる戦況が膠着してしまっていることの影響だと思いますが、イドリブでは最近になって、サッカーの組織が再始動しました。
シリア内戦に関する報道は、日本ではほとんどされなくなりましたが、それでもイドリブに関してはときおり断片的に伝えられています。その大半は難民がひどい生活を送っているといった内容でしょう。
実際、同地域の人々が過酷な状況に陥っているのは事実ですが、しかし、そんな中でもサッカーへの情熱、欲求を抑えがたい人たちがいることも、知っておきたいと思います。
追記(2021年3月5日) 記事中、「救国政府」「暫定政府」といった聴き慣れない言葉が出てきます。どこまで機能しているのかはわかりませんが、いずれも反体制派の「自治組織」のようなものです。救国政府は、シリアのアルカーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県の自治を委託されている機関。暫定政府は、シリア国外に本部を置くシリア国民連合の傘下にあり、主にトルコ軍が侵略占領しているアレッポ県北部で活動している機関です。
(下の写真:イドリブ市中心街の様子。2021年2月15日撮影)
反体制派ネットメディア「イナブ・バラディ」が2021年2月21日に配信した「『シリアカップ』開催 イドリブでサッカー復活に向けて準備始まる」という記事の概要を以下紹介します。
イドリブで「シリアカップ」開催
イドリブサッカー連盟(*反体制派が設立した独自の連盟で、FIFA公認のシリアサッカー連盟とは無関係)は、この間活動を中断していた組織を再構築して、地元クラブが参加する「シリアカップ」を開催する準備を進めている。大会は、3月5日から4月10日まで行われ、優勝チームには、優勝カップとメダル、それに賞金も授与される予定だ。
イドリブ地方では、2019年2月にロシアとイランの支援を受けた政権軍による攻撃が開始され、同年4月、攻撃は激化していった。
その結果、アレッポ、イドリブ、ハマの各郊外地域の町や村は政権軍の支配に入った。2020年3月5日、ロシアとトルコが停戦に合意したことにより、シリア軍の攻撃は止んでいる。
イドリブからサッカーが消えた
イドリブサッカー連盟のナーディル・アトラシュ会長によると、イドリブの競技場では2年以上もスポーツの大会が開催されていないという。
理由は、ここ数年間の政治的、軍事的事情によるもので、施設は使用に適さない状態になってしまっている。また、活動を組織するスポーツ機関もなくなったとのことだ。
2月13日に開かれた大会準備のための会議には、30以上のクラブの代表が参加した。政権軍の進軍により避難生活を送っているマアッラ・ナアマーン、サラーキブ、ハーン・シャイフーンのクラブを始め、大半が困難な状況に置かれているクラブだ。
アトラシュ会長は、この会合でクラブからの要望を聞き、サッカー協会は、参加チーム支援のため、民間あるいは公的機関から融資を得るため、より多くの関係団体と協議することになる、と話している。
スポーツ団体再建から始める
アトラシュ会長によると、イドリブサッカー連盟は独立した組織で、大会運営においても、試合の安全を図るための活動をのぞき、同地方を管轄する「救国政府」も運営に関与しない、という。
イドリブ県およびアレッポ郊外の西部地方の一部を管轄する「救国政府」の勢力範囲にあるスポーツは様々な課題を抱えている。何よりも重要なのはスポーツ活動を支える組織自体が存在しないことだ。
一方、アレッポ郊外北部地方には、トルコ政府の支援を受けたいくつかの競技団体が活動をしている。
イドリブサッカー連盟は「シリア暫定政府」管轄下のアレッポ郊外の北部地方で活動する球技団体と継続的に連絡を取り合っている。
アトラシュ会長は、反体制派支配地域のスポーツ団体が単一の機関のもと統一できるよう、今後、協力関係をいっそう強化したいと、希望を語っている。
「シリア革命」後設立された団体 大半が消滅
2011年以来、反体制派支配地域では10以上のスポーツ機関が設立された。代表的なものとして、「シリア革命反体制勢力国民連立(シリア国民連合)」傘下のスポーツ総連盟、オリンピック委員会、「暫定政権」傘下の「青年スポーツ総機構」、「救国内閣」が設立した「スポーツオフィス」(現「スポーツ青年総局」)などがある。
しかし現在、これらのスポーツ組織は、「青年スポーツ総機構」と、イドリブ地方の大半のスポーツ施設を管轄する「救済内閣」傘下の「スポーツ青年総局」以外、残っていない。