今回紹介するのは、アルジャジーラ・ネットが2015年9月6日に配信した、シリアの反体制派が政府に対抗して、独自にサッカーの代表チームを結成したと報じる記事です(المنتخب الوطني السوري الحر يرى النور)。
シリアの反体制派が支配するイドリブ県で、サッカーのリーグ戦が立ち上げられたという記事を先日紹介しました(反体制派支配地域でもリーグ戦立ち上げ シリア)。その記事でも言及されていましたが、リーグ立ち上げの目的の一つは、これを新たなシリア代表チーム=自由シリア代表結成につなげることにありました。
記事からは、結成した具体的な時期はわかりませんが、ちょうど日本がシリアと同じ組に入ってロシア・ワールドカップのアジア第2次予選をたたかっていた時期と重なっていたと思われます。
自由シリア代表は、政権側のもとにあるシリアサッカー連盟の代表チームに代わって、自分たちをシリアの正統な代表として承認するようFIFAなどに働きかけていたようですが、当時、自由シリア代表のことなど日本ではまったく話題に上っていませんでしたので、おそらく試みは失敗に終わったのでしょう。
反体制派からすれば、人気スポーツであるサッカーを政治的に利用するのは、ある意味当然のことと言えます。しかし、代表チームや選手たちがその名のもとに政治的な言動をとっているのならともかく、サッカーを使ってさらに国民間に溝をつくるなんて、支持したくありません。選手やこの競技を愛するファン、そしてサッカーそのものをそっちのけにした愚かな行為に思えてなりません。
このブログで、シリア代表でプレーするオマル・オマリ選手のインタビューが載った記事を紹介したことがありました。彼はこう言っています。
「当然、ぼくらはドレッシングルームで戦争や国民が日常的に味わっている悲しみについて話し合っています。個々の選手はそれぞれ特定の意見を持っています。しかし、最後には、いろんな主義主張は脇において、ぼくらは祖国とシリアの旗のもとにプレーしようという結論になるんです」(シリアにとっての大一番、迫る)
甘いと思われる方もおられると思いますが、それでもぼくは断然こういう立場を支持したいと思っています。
この記事も1年半前のニュースですので、この自由シリア代表チームが現在も存在しているのかどうかについては、わかりません。
元記事URL:
http://sport.aljazeera.net/football/2016/7/4/المنتخب-الوطني-السوري-الحر-يرى-النور
自由シリア代表チームが見る光
2015年9月6日
アルジャジーラ・ネット
執筆 オマル・アブー・ハリール(キリス=トルコ)
革命の年から4年以上経過し、バッシャール・アサド体制に反対する選手たちが競技から離れる中、反体制派の青少年スポーツ関連の団体が、サッカーの自由シリア代表チームを結成したと発表した。
代表チーム結成の発表はトルコのキリスで行われ、そこには1週間続いたチームとしての初めてのトレーニングキャンプを終えた選手やコーチ陣も集結した。
チームを管轄する青少年公共連合のワリード・ムヒーディ会長は、自由シリア代表結成の目的は、体制側が支配する地域のクラブでプレーすることを拒否し、政権側から離脱したすぐれた選手たちを結集することにある、と述べている。
チームの正当性
この代表チームの正当性について、ムヒーディ会長はアルジャジーラ・ネットの取材に、チームは革命的、国民的正当性を有することを強調。自由を求めるシリア国民や反体制派の諸組織からの祝福を得ていると話す。
ムヒーディ会長は、「われわれは、国際社会の支持と国際サッカー連盟(FIFA)の承認を得るため努力しています」と言う。当面は、政権側のシリアサッカー協会とシリア代表チームのFIFAの承認を取り消しを求める取り組みに集中している。そのために、シリアにおいては数十人ものサッカー選手が政権側によって逮捕、殺害されていることを裏付ける様々な証拠や証言をFIFAに提供することにしているという。
また、すでに自由シリア代表の複数の広報担当者がFIFAに対し、政権側がサッカースタジアムを政権軍の兵舎に転用したり、市民を殺害する戦車やミサイルのために使用されたりしている(訳注:戦車やミサイルの収納場所という意味か)ことを示すビデオや写真を提出していると明らかにした。ビデオや写真の中には、アサド政権に反対する人たちへの拷問が行われる収容所として利用されていることを示すものもあるという。
ムヒーディ会長は、FIFAが政権側の代表チームに代わって自由シリア代表チームをシリアの代表として承認する見通しについては楽観視していない。青少年公共連合がもう何か月も前にこれらの証拠や資料、書類を提出しているにもかかわらず、FIFA側からの反応がないからだ。
すぐれた選手たち
自由シリア代表選手の選考方法について、代表チームのマルワーン・モナー監督によると、国内のすぐれた選手と国外のクラブでプレーするプロ選手120人を招集し、トルコの複数の町でトレーニングキャンプを3回にわたって実施することになっているという。
同監督はアルジャジーラ・ネットの取材に、「第1回目のキャンプをキリス市で選手40人を集めて行いました。残り2回も、トルコの別の都市で行う予定です。それでフル代表チームとその下のカテゴリーの選手を選考することになります」と話している。
マルワーン監督は、この新しい代表チームへの勧誘のため、国際的に活躍する選手や専門のコーチングスタッフとも連絡をとっていることを明らかにした。著名で有能な複数の選手が近く、自由シリア代表に合流する予定だという。
代表への資金援助
自由シリア代表は、「アル=サンカリー慈善活動協会」から資金提供を受けることになっている。同協会はチームのトレーニングキャンプの経費を負担し、今年終わりまで月2万ドルを支払うことになっている。
複数の情報筋によると、ある国際的なスポーツ企業が自由シリア代表支援のため、複数の強豪クラブやフル代表チームとの試合を計画しており、この計画はすでに進行中だという。
なお、自由シリア代表を管轄する青少年公共連合のワリード・ムヒーディ会長は、アル=フトゥーワ(訳注:シリア北東部の都市デリゾールのクラブ)の元会長でシリアサッカー連盟のメンバーでもあった。自由シリア代表のマルワーン・モナー監督はアル=フッティーン(訳注:シリア西部の都市ラタキアのクラブ)所属のシリア代表選手だった。
(情報源:アルジャジーラ)