今回紹介するのは、アル=アフバール(レバノン)が2016年10月8日に配信した、シリアの戦争とサッカーの可能性について論じたコラムです(نهاية الحرب على يد «دروغبا السوري»!)。
2006年ドイツ・ワールドカップのアフリカ予選でコートジボワールが初めて出場権を獲得したとき、国民的英雄ドログバ選手が国民に向けて、内戦終結を呼びかけ、それを機に和平が実現したという逸話が残っています。
この呼びかけが、現実世界にどれだけ影響したのかはわかりませんが、なんらかの意味を持ったというのはありえない話ではないと思います。
今回紹介する記事は、今のシリアでの戦争を終わらせることができるのは、「シリアのドログバ」が現れたときではないかというのが趣旨です。執筆者はジャーナリストで作家のシリア人。
一読して、あまりいい印象を持ちませんでした。なんか安易というか、無責任な夢想だと感じたからです。今のシリアの現状を見ると、一スポーツ競技の結果でどうこうなるとの見方は、かなり楽観的でしょう。
しかし、よくよく考えてみると、執筆者は実際にはそんな可能性なんててんで信じていないのです。というのは、現在シリアがワールドカップ予選を勝ち抜く可能性ははっきり言ってかなり低い(ぼくは突破を願っていますが)。また、ドログバに匹敵するような世界的に見ても傑出した選手が突如現れるとも思えません。
つまり、シリアにドログバは、いくら待ってもやって来ない。だから戦争も終わらない。執筆者は絶望しきっているのだと、ぼくは読みました。
追記 今回の記事。わけがわからない箇所多々あり。適当にはしょったり想像したりした訳になってしまいました。
元記事URL:
「シリアのドログバ」が戦争を終わらせる
2016年10月8日
アル=アフバール(レバノン)
イザーム・アル=イラーフ
(小見出しは訳者による)
ドログバの呼びかけ
コートジボワール代表で、チェルシーの伝説的英雄であるディディエ・ドログバは、2006年のワールドカップ出場を決めた直後、祖国の国民に向けて、5年もの間続く内戦の終結を呼びかけた。
この呼びかけの6か月後、内戦が終結したのはおそらく偶然ではないだろう。終結の決定は国際的な取り決めによるものではあるのだが、世界で最も人気のあるサッカーが、数百万もの人びとの感情に与える影響力を無視するわけにはいかない。
ドログバは祖国の貧しい人びとの心に喜びをもたらすことだけで満足しなかった。すでに、ドログバは、チェルシーがあるロンドンの裕福なエリアの人びとに栄光の陶酔を与えていた。すなわち、2012年のヨーロッパ・チャンピオンズリーグ決勝において、試合終了2分前に同点ゴールを決め、PK戦でもゴールを決めてチェルシーに史上初めてのヨーロッパ・チャンピオンのタイトルをもたらしていた。
ドログバはコートジボワールの貧困地区で、貧しい両親のもと生まれた。サッカーを通じてその境遇に打ち勝った。現在では、人びとから国民的英雄と称されている。また、祖国では、私費を投じて、5つの病院建設とさまざまな開発事業に寄与している。
彼の母親は、ユーゴスラビアの元指導者の名にちなんで、息子に「ティトー(チトー)」の愛称をつけた。くしくも、コートジボワールとユーゴスラビアはともに、シリアや第3世界の多くの国々、あるいは「先進国」が呼ぶところの「最貧国」で起こっているような、地域的、国際的な紛争の時代を生きてきた。
われわれ第3世界の住民、われわれの祖国の大地、資源というものは、国際的なサッカースタジアムのような存在だ。大国はわれわれの大地や資源を国際政治のサッカー競技のようなつもりで奪い合っている。戦争のため殺され、逃れ、苦しめられている何百万もの人びとの運命が顧みられることはない。
ジョコビッチの怒り
マスコミや世界の「エリート国」は、彼らの国のことをテロや流血の国、その特徴を持つ国民の国だと断定して彼らを囲い込んでくる。たとえば、マスコミは、ユーゴスラビア分割後に起こった内戦において、「セルビアの残虐性」を示す明白な写真を世界中に配信した。だが、この戦争をあおってきたNATOやアメリカ、その両者の果たしてきた役割について言及することはほとんどなかった。
しかしそれでも、内戦後、さまざまな分野においてセルビアから豊かな才能が生まれることをとどめることはできなかった。現在、テニスに関心がない人でもノバク・ジョコビッチの名前を聞かない日はない。テニスの世界ランキング1位のセルビア人選手である。
ジョコビッチは2013年、ドイツ通信社(DPA)のインタビューで怒りとともにこう語っている。
「メディアは過去20年にわたってくり返しセルビアについて悪しざまに報じてきました。通常、どんな場合においてもセルビアについて語る際のメディアのねらいというのは、暴力や犯罪といった否定的側面に焦点を当てることにありました。わたしがこういったことを支持するわけにはいかないのは言うまでもありません。この国出身の一人として、報道が変わることを望んでいます」
スポーツの可能性
シリア人のガーダ・シュアーウの例もある。ガーダはシリアのハマ県ムハルデ村で生まれた陸上競技の女子選手である。1995年の世界陸上と1996年のアトランタ・オリンピックの七種競技で金メダルを獲得し、ガーダの名を世界に知らしめた。そして彼女は世界で最もすぐれた選手になったのである。
内戦、地域紛争、民族紛争、そして国際紛争が起こったこの数十年、この地上の指導者たちによる国際的な利益や冷戦が原因で、毎日何十人もの犠牲者が生まれている。どんな政治家、知識人、思想家も、数百万人に影響を与えることはできない。ところが、スポーツは何億もの人びとの心に喜びを与えることができる。たとえば、シリアの戦争を終わらせることができるものはなんだろうか? シリア人を一つにまとめることができるものはなんだろうか?
それはおそらく、ガーダ・シュアーウのようなヒーロー/ヒロインの活躍ではないか。また、2018年のワールドカップにシリアがたどり着く可能性もそのひとつだろう。その際、「シリアのドログバ」が戦争終結の呼びかけを行うことができるはずだ。そのためには、シリア代表には、サンハーリブ・マルキーやオマル・アル=スーマ、フィラース・アル=ハティーブ、ジハード・アル=フセインなどといった選手が代表に招集されるべきなのだが、スポーツとは無関係な諸事情が、彼ら才能豊かな選手たちが祖国の代表に選ばれることを阻んでいる。シリアサッカー連盟の腐敗がその主要な要因だ。
ドログバを待って
だが、それでも、ワールドカップ予選に参加している「現有の」選手たちのチームが、戦争の終結と平和な生活を国民に対して呼びかけることが可能となるとき(訳注:シリアが予選を勝ち抜いたときという意味か)、世界で最も人気のあるスポーツであるサッカーは、人びとのあらゆる苦難を終わらせるために、他の方法ではなし得なかったことができるかもしれない。
しかし、課題が残っている。戦争の混沌とした闇の中で、このような夢を実現し得る「シリアのドログバ」とは誰なのか?!
シリアの人びとは、終りなき戦争から抜け出すため、ドログバを待たなければならない。