今回紹介するのは、アル=マヤーディーンが2017年3月15日に配信した、シリアではスポーツが戦時下の人びとの心の支えになっていることを伝える記事です(الرياضة السورية بسمة في قلب الوجع)。
3月15日(2017年)はシリア紛争が始まって丸6年にあたり、この時期には、各紙、紛争のこれまでの経緯を振り返ったり、現状や今後の展開を予想する記事を掲載していました。
今回の記事もその一つと言えます。記事を掲載したアル=マヤーディーンはレバノンに本部を置く衛星放送局。有名なカタールのアル=ジャジーラの報道姿勢に疑問を持ち、同局を辞めた人たちを中心に、2012年に設立されたばかりの新しい報道機関です。
シリアの戦争は、軍事的には政権軍側が圧倒的有利な情勢になっていると伝えられています。しかし、比較的安定していると言われていたダマスカス中心部やその近郊で大規模なテロや戦闘も散発しており、今後何が起こるのか、まだ予想がつきません。
ですので、現実は、この記事が言うほどスポーツが人びとの気持ちの支えにはなりえているとは思えないのですが、しかし、ごく間近でシリアの現実を目の当たりにしている記者たちがそう語っているわけなので、多少はそういった側面はあるのかもしれません(そうであることを願っています)。
サッカーのシリア代表チームが戦時下の人びとに与えた影響についても、ごく簡単にですが、触れられています。まもなくワールドカップ出場をかけたアジア最終予選が始まりますね。期待はほとんどしていませんでしたが、今回もアル=スーマ選手が代表に招集されることはありませんでした。おそらく彼の勇姿を予選で見ることはないのでしょう。
引き続き、シリアのたたかいぶりに注目していきたいと思っています。
元記事URL:
掲載紙:アル=マヤーディーン(レバノン)
掲載日:2017年3月15日
シリア スポーツは傷ついた心の支え
(小見出しは訳者によるもの)
2011年から続く戦争にもかかわらず、シリアではスポーツ活動が歩みを止めていない。シリアの人びとにとってスポーツは、生活と頑張りを保持し続けている証しであり、希望の光を発する居場所としてあり続けている。スポーツは、気持ちがさいなまれる暮らしの中にいるシリア人たちによって育まれた象徴なのだ。
破壊からの復興
2013年3月11日、シリアの首都ダマスカス中心部バラミケ地区のティシュリーン・スタジアムで、サッカーのシリア国内リーグの一戦、ミサーファー(本拠地バニヤス)対ウマイイヤ(同イドリブ)の試合が行われていた。後半途中、複数の武装集団が打ち込んだ多くの迫撃砲が、競技場周辺に着弾。競技場にもその砲撃の破片が飛び散り、6人が負傷した。
ティシュリーン・スタジアムが砲撃されたのはこれが初めてのことではなかった。このひと月前、やはり、アル=ワスバ(同ホムス)対アル=ナワーイール(同ハマ)との試合の最中、競技場が砲撃され、アル=ワスバのユーセフ・スレイマーン選手が死亡、4選手が負傷した。
しかし、これらの砲撃を受けても、シリアのスポーツ活動は立ち止まることはなかった。シリアの人びとにとってスポーツは、生活と頑張りを保持し続けている証しであり、希望の光を発する居場所としてあり続けている。スポーツは、気持ちがさいなまれる暮らしの中にいるシリア人たちによって育まれた象徴なのだ。
最近ではこういった事実とは逆の状況が生まれつつある。今年1月末、アレッポのスタジアムで、あるサッカーの試合が開催された。アレッポ市が武装勢力から解放された後に行われた国内リーグのアル=フッリーヤ対アル=イッティハードという(訳注:アレッポを本拠地とするチーム同士の)試合である。これは、2011年に危機が始まって以来初めてのことだ。観客席は、シリア国旗を振り回す大勢の人びとで埋まった。人びとは応援を通して祖国への愛情を表現しながら試合に熱中した。
砲弾に倒れた選手たち
たしかに、シリアにおいて戦争は、様々な武装勢力がアスリートたちとスポーツ関連施設を標的にしたことで、スポーツ界に傷跡を残した。多くのアスリートたちが犠牲となった。だが、スポーツ界は降伏することを拒否した。
犠牲となったアスリートたちの長い名簿がある。その中にはアル=ジャイシュ・クラブの元会長アル=アキード・ナジーフ・ヌアマーン氏の名前もある。同氏はダマスカスのアル=ファイハーウ競技場に着弾した迫撃砲により亡くなった。
また、ボクシングのシリアチャンピオンで、1991年に行われたシリア選手権金メダリスト、アラブ選手権でも優勝したギヤース・タイフール選手も殺害された。同様に、テコンドーのシリア代表ムハンマド・ナアマ選手もアル=ファイハーウ体育館への砲撃で犠牲となり、バスケットのシリア代表バーセル・リヤー選手は学校を標的にした武装勢力の砲弾によって負傷した。学校はダマスカス郊外のサフナーヤー地区にあり、バーセル選手はここでトレーニングをしていた。
歓喜と希望の源
最近のシリアスポーツ界の傾向は、国際大会への参加を制限しなくなっていることだ。サッカーのシリア代表にいたっては、2018年にロシアで行われるワールドカップへの出場権をかけた最終予選進出を決め、シリア国旗を高々と掲げている。本大会出場への道はまだ遠いものの、より重要なのは、代表チームがいくつかの注目すべき結果を残し、自らの存在をアピールしたことだ。最終予選ではアウェーで中国に勝利し、韓国とも引き分けた。また、2019年にアラブ首長国連邦で行われるアジアカップへの出場権も獲得した。
シリア代表はホームでの試合開催ができないため、マレーシアでホームゲームを行っている。これにより苦労と疲労、物理的負担を負うことになっている中で残した結果なのだ。
シリアにおける人びとの頑張りの要因に関して語る際、スポーツに関して言及しないわけにはいかない。大勢のスポーツ関係者が犠牲となってはいるが、悲劇や痛みにかかわらず、スポーツは歓喜と希望の源であり続けているのである。