サッカーが煽る憎悪 エジプトとヨルダン

今回紹介するのは、レバノン紙「アル=ムドゥン」が2017年8月8日に配信した、アラブ・クラブチャンピオンシップ決勝戦での暴力行為に関する記事です(المدن – أزمة رياضية بين الأردن ومصر تُسعِّر “النازية العربية”)。

はじめにお断りしますと、今回の訳は正確ではありません。短い記事で、シンプルな文脈だし、単語もそうこったものが使われているわけではないのですが、よく理解できないくだりがいくつもありました。おそらくぼくの背景知識の不足によるものだと思います。理解できない箇所は適当に端折ったり、想像したりして文字を埋めました。ただし、記事の大意は大きく外してはいないと思います。

この記事だけ読んでもなんのことかわかりづらい。わかる範囲で説明しておきます。

2017年7月から8月にかけて、エジプトでアラブ・クラブチャンピオンシップというアラブサッカー連盟(UAFA)が主催する大会が開催されました。UAFAには西アジアとアフリカのアラブ諸国22か国が加盟する地域連盟です。本文記事ではこの大会は親善試合だと言っていますので、本来はそうガチガチした雰囲気のもとで行われるものではないのだと思います。

大会には予選を勝ち抜いた12チームが参加。チュニジアのエスペランス・チュニス(ESチュニス)とヨルダンのアル=ファイサリーというそれぞれの国を代表する人気チームどうしの対戦となった8月6日の決勝では、ESチュニスがアル=ファイサリーを延長戦の末、3対2で破り3回目の優勝を果たしています(2017 Arab Club Championship – Wikipedia)。

この試合では、決勝点となった延長でのESチュニスの得点シーンを含め、判定をめぐりたびたび試合が中断することがあったようです。試合終了後、アル=ファイサリー側の不満が爆発、選手、チームスタッフがレフリーを取り囲み、暴行をはたらくという異常な事態となり、しかもその映像がインターネットで拡散してしまいました(アラブカップ決勝が大混乱…審判が頭突きを食らい、38人が逮捕)。

ところがさらに異常なことは、チュニジアのチームとヨルダンのチームとの試合だったにもかかわらず、その後混乱は、ヨルダン側サポーターとエジプト人との間の対立に転化してしまったことです。ヨルダン側が、決勝のエジプト人レフリーのジャッジに不満をもったことと、大会準決勝で、アル=ファイサリーがエジプトの人気チームアル=アハリーを打ち負かしたことが、背景にあると言われています。しかしこれが直接的に、両国ファンが対立する事態になるほどの理由とは思えません。

記事本文がほのめかしている通り、対立を煽ろうとする政治的意図が作用していると考えるのが妥当なような気がします。

おそらく多くの日本人からみると、アラブの国、あるいは中東諸国といっても、どれも似たような国で、違いがほとんどわからないと思います。政治的には、1960年代にはエジプトを中心にアラブ民族主義が台頭し、国家の枠組みを超えたアラブ全体の連帯運動が力を持つこともありました。

だから余計、アラブの国どうしがこうまで対立するのか、なかなか実感としてわからない点なんですよね。もっとも、たとえば日本と韓国との強いライバル意識も、アラブからみると、「なんで似た者どうしがそうまでして張り合うのか」と理解不能のことなのかもしれません。

なお、本文中でも触れられていますが、現在エジプト国内リーグの試合は、過去に何度も多数の死傷者を出すファンによる暴動事件発生を受け、観客の入場は禁じられています。代表の試合や今回のような国際的な親善試合の場合は入場は許されているようです。


元記事URL http://www.almodon.com/media/2017/8/8/أزمة-رياضية-بين-الاردن-ومصر-شغب-الفيصلي-وتفاهات-الإعلام

ヨルダンとエジプト スポーツの危機
「アラブのナチ」発言も飛び出す

掲載紙:アル=ムドゥン
掲載日:2017年8月8日配信
執筆者:アフマド・ヌダー

(文中✴︎は訳注 小見出しは訳者によるもの)

http://www.almodon.com/media/2017/8/8/أزمة-رياضية-بين-الاردن-ومصر-شغب-الفيصلي-وتفاهات-الإعلامより

その大会が親善試合であろうと、サッカーにおいては大した意味はない…。サッカーにおける熱狂的な愛国主義の炎上は、2010年、エジプト・アルジェリア間の断絶という事態をもたらしたが、これは互いにとって損害を被った経験だった…。

鬱屈した人びとの本音

エスペランス・チュニス(✴︎ESチュニス)との決勝戦で、アル=ファイサリーのファンたちは、ゲームの進行ともに細心の警戒をする必要があった。

だが、ヨルダンチームの選手たちは自らのことを「ナシャマー」と呼んでいるが(✴︎ナシャマーはヨルダン代表チームの愛称。騎士道精神にのっとり礼儀正しい、情け深い人たちといった意味)、実際には彼らの行いはナシャマー(礼儀正しい)どころではなかった。飢えた獣の群れと化し、レフリーに襲いかかり、スタジアムで暴れまわった。そしてしまいには、映像やインターネットで映し出されたように、エジプト人レフリーを「ナチ」といった最悪の表現で非難するなど狂信的な集団と化してしまった。

(✴︎SNS上で)「#アル=ファイサリー」や「#アル=ファイサリー_エスペランス」といったハッシュタグをたどっていくと、事態は、激烈な論争となっている。論争は、アル=ファイサリーのファンと、そしてエジプト人のファンたちの間で起こっている。エジプトのアル=アハリーが敗れたアル=ファイサリーとの試合(*大会の準決勝)では、まったく敵意に満ちた感情が引き起こされることにならなかったにもかかわらず、である。

今回、試合をさばいたエジプト人レフリーが「国民の優位性」をめぐる論争の当事者となった。その一方、この試合で勝利したチュニジア人は当事者にはなっていない。というのも、ヨルダンチームの興奮した連中が怒りの矛先を最も弱い立場にいるレフリーに向けたのと同様、クラブとしても、エジプト人レフリーは準決勝でアル=アハリーに自分たちが勝ったことに対する報復を行ったのだとして、すべての責任をこのレフリーに押し付けたからだった。また、クラブの副会長で会計責任者のイサーム・アブー・タウィーラ氏をはじめクラブの役員たちも嘆かわしいコメントを発して、この論争を煽った。

アブー・タウィーラ副会長は、「ON SPORTS」に出演し、過去、ポートサイドのスタジアムでアル=アハリーのファンたちによって引き起こされ74人が犠牲となった悲劇を引き合いに出し、今回のようなことはエジプトではよくあることだとして、アル=ファイサリーの選手やファンたちが思わずとった言動を「正当化」した。だがこの発言には、「言い訳は過失より醜悪だ」というよく知られた表現が当てはまるというものだ。また、副会長は、試合中の出来事だったにもかかわらず、クラブ役員の一人がレフリーに暴行をはたらくといった「逸脱行為」を自分は目にしなかったと弁明している。このシーンはくり返し放送されているのだが、実際に生じていない出来事だと言っているわけである。

この事態に対し、エジプトのメディアは、充満する差別的な言辞に関わらないよう、最大限静観しなければならなかった。しかし、まったく逆の対応をしてしまった。(✴︎国内リーグの)試合をスタジアムで観戦することが禁じられ、沈滞したサッカー生活を送っている一部のエジプト人ファンにとって、これは格好の機会となった。YouTubeには、炎上コメントとともに、メディアが放送した(✴︎アル=ファイサリー側による暴行場面の)動画であふれかえった。

コメントは当初、「アラブの連帯」といったお決まりのフレーズや、この大会は「兄弟」間の親交を深めることが目的だといったものばかりだった。ところがこれらお決まりのフレーズが消費され、尽きてしまうと、覆い隠されていた本音が現れ始めた。それは「エジプトは世界の母だ。しかしクソより偉大だ」といったヨルダン人の差別意識をナチス以上の言葉であらわにしたものだった。

親善大会の試合の単なる誤審から始まった争いは、両国間の無知からくる憤激に変わった。そして、両国のスポーツメディアは、互いに自チームのファウルを擁護し、相手側に対して低劣な非難をくり返している。

体制に煽られた対立

一つのアラブという強固な決まり文句が粉砕されたのはこれが初めてではない。2010年にエジプト対アルジェリアの試合で愚かきわまりない理由で起こった事件がまさにそれだった。このとき、当時の大統領の息子アラー・ムバラクの指示のもと、エジプトのメディアは、アルジェリアに対して敵対的な声明を発表した。人びとは、対立が、政治的に利用するためエジプト、アルジェリアの両政府によって仕組まれたものであることが1月革命(✴︎2011年のアラブの春の革命)で明らかにされるまで、この騒動に踊らされた。

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