今回翻訳したのは、6年目に入ったシリアにおける戦争の激戦地のひとつで、戦争勃発当初「革命の首都」などと呼ばれていた西部の都市ホムスで、5年ぶりに国内リーグの試合が開催されたというニュースです。
シリアでは、戦争勃発以降も国内リーグ(20チームで構成)が途切れ途切れながらも開催され続けています。人口の半数が国内外に避難しているという非常時下でサッカーイベントを続けることについては、おそらく様々な議論があることとは思いますが、どうにかこうにか継続していること自体、「偉業」と呼んでいいのかもしれません。
ただし、試合開催地は比較的治安が安定している首都ダマスカスとラタキアの2都市に限られています。両市以外のチームはホームゲームを開催することができないという特異な条件下でリーグ戦をたたかっているわけです。
今回ホムスで行われたのは、本来ここをホームとする「アルカラーマ」と、ハマー(シリア北西部の都市で、同市も激戦地のひとつ)をホームとする「アルタリーア」との一戦で、観客の入場も認められていたようです。
アルカラーマは、おそらく日本で最も知られているシリアのクラブチームだと思います。2006年のAFCチャンピオンズリーグでは準優勝を果たし、また、決勝トーナメントで日本のチームと対戦するため、過去何度か来日もしています。
また、ホムスといえば、日本でも公開され話題になった、「それでも僕は帰る──シリア 若者たちが求め続けたふるさと」(タラール・デルキ監督)というドキュメンタリー映画の舞台となった町でもあります。映画の主人公アブドゥル・バセット・アルサルートという若者は、他でもない、このアルカラーマに所属するゴールキーパーでした。
なお、バセット青年は、その後様々な戦闘を経て、現在はイスラム国(ダーイシュ)に合流しているという情報も流れています。正しい情報かどうか、ぼくには判断できません。もし本当なら、映画の中では当初非暴力で反体制運動に立ち上がり、朗らかに歌い語って、人びとに愛された彼が、よりによってダーイシュに行ってしまったのかと思うとやりきれない気持ちになります。
さて、今回の記事は、文字数こそ少ないのですが、試合経過を説明する特有の用語を使った記述が多く、また選手名もたくさん出てくるので読解に難儀しました。簡略化するとともに、日本語の試合解説記事によく出てくる定型表現などにも適宜置き換えています。
元記事URL:
جمهور ناري وتعادل سلبي بأول مباراة دوري بحمص منذ 5 سنوات | syrian soccer :: موقع الكرة السورية
http://www.syrian-soccer.com/?page=show_det&select_page=1&id=7689#.Vv8E1hrbO3o
熱狂する観衆、試合はスコアレスドロー
ホムスで5年ぶりにリーグ戦開催
シリアサッカードットコム
2016年4月2日
text ハーニー・スッカル
(写真 http://www.syrian-soccer.com/?page=show_det&select_page=1&id=7689#.Vv8E1hrbO3o より)
ホムスで5年ぶりに行われたリーグ戦を祝うため3000人のサポーターがつめかけたアルカラーマとアルタリーアの試合はスコアレスドローに終わった。
この5年間リーグ戦の試合会場になっていなかったホムスで、たとえ束の間だとしても、だれもが忘れていたすばらしいあの祝祭の光景を、この日のスタジアムの観客は描いて見せてくれた。多くの歌声や野次さえもが、5年ぶりのスタジアムでくり返された。
試合は、キックオフからアルタリーアのアッタール監督率いる選手たちは観客の大歓声に影響を受けることなく、プレーした。最初にチャンスをつかんだのもアウェーのアルタリーアだ。しかしこれはアルカラーマのGKナアサーンとクロスバーに阻まれる。一方、アルカラーマのFWサラールはファースィル・マハーリーからのパスを受け何度もゴールに迫り、会場を沸かせたが、得点を上げることができない。
前半は両チームとも攻め合った。アルカラーマのアンナシュミーが決定機をつくり、ブータがなんどもヘディングで攻め込んだが、ボールはわずかにクロスバーの上を行く。アルタリーアのマズダード・ブラージーがゴールネットを揺らすが、オフサイドの判定で得点ならず。ジンニヤートの直接フリーキックは、ハムダーニーがクリア。ハムダーニーはイードのシュートも防いでいる。前半は0対0で終了した。
後半になると、ホームのアルカラーマがゲームを支配するようになるが、両チームとも得点につながるようなチャンスは少なかった。アルサラールがゴール前の競り合いに勝ち、ヘディングシュートを放つが、ハムダーニーのファインプレーでクリア。その後、アルハムードがチャンスをつくるが、シュートミスする。タイムアップ数分前、アルカラーマのGKナアサーンが自陣ペナルティエリア外からのボールの処理を誤り、危うくチームを敗戦に陥れるところだったが、カーフィーがゴール手前で追いつきでクリアする。試合はスコアレスドローで終了した。
試合後のインタビューで、アルカラーマのアブドゥル・ガーディル・ラファーイー監督はホムスで再び試合ができた喜びを強調した。
「わたしが選手だったとき、スタジアムの観客の歌声を耳にしたり、満員となっているスタンドを見ると、特別の力を感じたものでした。今日の選手たちはおそらくはじめ戸惑っていたと思います。というのも彼らはもう長い間、観客の前でプレーする機会がなかったからです。しかし、後半になるとわれわれはプレーする喜びを感じていました。われわれはゲームを支配することができましたが、得点を上げることができませんでした。リーグ戦の決勝ラウンドでは、もう一度ホムスでに戻ってきて、観客のサポートを得たいと願っています」
アルタリーアのムハンマド・アッタール監督は、次のように語った。
「難しい試合でした。われわれはずっと決定力不足に悩まされています。今日のレフリーの判定にはあまり満足していませんが、スタジアムの雰囲気について言うと、ホムスの人びととこの祝祭に参加することができて幸せに思います。ハマー(訳注=アルタリーアのホームタウン)のスタジアムでも同じように試合ができるようになることを願っています」
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