前回、テヘランで行われたイラン対ボリビアの親善マッチに、初めて女性のスタジアムでの生観戦が許可されたというニュースを紹介しました。今回はその関連情報です。
試合の翌日、早くも「保守派」の巻き返しが始まり、モンタゼリ検事(日本の報道では検事総長という肩書きが付いている)が「この先絶対、女性の観戦を認めない」とのコメントを発表しました。
しかし、イランでは女性のサッカー観戦を要求する運動は長く続いてきているものです。「保守派」の思惑通りにこのまま治るとは考えられず、というか、少しずつかもしれませんが、観戦を認める方向に向かわざるを得なくなるのではないかと、ぼくは見ています。
他のことならともかく、国民の最大関心事の一つに関して、まともな理由を示すことなく禁止し続けることが、今後も長く続けられるとは、とうてい思えないですね。今回の記事を読んで、いっそうそう感じました。(下の写真は、ロシアワールドカップのイラン対モロッコ戦の試合会場で掲げられた、イラン人女性のスタジアム観戦を認めるよう要求するプラカード)
「オフサイド・ガールズ」イラン スタジアムの女性たち
掲載紙:アフバール(レバノン)
掲載日:2018年10月26日
執筆者:ザフラー・リマール
URL:https://www.al-akhbar.com/Sport/260444/الإيرانيات-في-الملاعب-حالة-تسلل
(*は訳注 小見出しは訳者によるもの)
「オフサイド・ガールズ」というイラン映画に、こんなシーンがある。アザディ・スタジアムへの侵入を試みて捕まった女の子たちの一人が、彼女の見張りを担当する兵士に、女性がサッカースタジアムへの入場を禁じられている理由はなんなのかと尋ねるシーンだ。
地方出身のその兵士は答える。「女と男が一緒に座ることなんてできないじゃないか」
女の子は反論する。「だけど、映画館では女は男の隣に座ることが許されているじゃないの。映画館は真っ暗なのに」
女の子と兵士の口論は続く。兵士は彼女に向かって大声で説明するが、女性が入場を禁じられている明確な理由を示すことができない。イランのサッカーを愛する女性たちをとりまく不合理さの一つだが、この現状が近い将来改められとは期待できない。
ふたたび門が閉ざされるか
イランではめずらしいことに、当局は先週木曜日(*2018年10月16日)、史上初めて女性がスタジアムでサッカーの試合を直接観戦することを許可した。イラン代表とボリビア代表との一戦だった。
当日、当局は究極の「パターナリズム」を発揮し、女性たちが首都テヘラン西部にあるアザディ・スタジアムに入場するために3台の専用バスを用意した。試合は2対1でイランが勝利した。
女性のスタジアム観戦の許可は、イランサッカー連盟の要請を受け、テヘランの治安委員会が同意したことで実現したものだ。ただし、女性の観客が男性と「交わること」を避けるため、女性の座席はエリアが限定されていた。…《なんということだ》
とはいえ、サッカー関係者は今回の措置を肯定的にとらえていた。今後女性のスタジアム観戦に門戸が開かれていくことになるだろうと。
だが、喜びは長くは続かなかった。扉は再び女性たちの前で閉じられてしまった。試合のあった翌日、イラン当局は改めて、女性のスタジアムでのサッカー観戦を禁じたのである。イランの「メフル」通信社によると、ムハンマド・ジャアファリ・モンタゼリ検事が、「男子サッカーのスタジアムでの試合観戦を女性に認めることは今後二度とありません」と話したという。
最高指導者の意向
同通信社によると、その上で、モンタゼリはこう語った。「私はスタジアムに女性が入場することに反対です。われわれはイスラーム国家であり、イスラーム教徒なのですから」
モンタゼリはそう言うだけでは満足せず、「いかなる方法であろうと女性のスタジアム観戦を認めようとする関係者」と断固たたかうと威嚇し、「女性がスタジアムに行けば、スポーツシャツをほとんど脱いだ男たちを見ることになるんです。これは治安を乱す結果を招いていくでしょう」と述べた。
モンタゼリのこの発言は、たいして驚くようなものではない。女性の観戦を禁じる理由を問われたとき、彼がいつも使っている表現なのである。その真意は、2018年においてはほとんどジョークのようなものであるが、スタジアムで発生する騒乱から「女性たちの名誉を守ること」なのである。したがって、スタジアムのスタンドには女性の居場所などないのだ。
1979年のイランでのイスラーム革命以来、イラン当局は、男子サッカーやレスリングをはじめ、スタジアムでの女性のスポーツ観戦を禁じている。禁止する公式の規定や法律がないにもかかわらず、地元当局は禁じる措置を取ることを慣例としてきた。
ハサン・ローハニー大統領は、スポーツスタジアムから女性を排除することに反対しているとみられている。だが、大統領は、この禁止政策を支持している同国の「保守強硬派」をいまだに打破できないでいる。ローハニー大統領は、最高指導者ハメネイ師に近い反対派と対立しているのだ。ハメネイ師は、女性のスタジアム観戦禁止は、「安全のため」だと主張している。
バレーやバスケット会場では認められている
サッカーだけではない。バレーボールでもまた禁止されていた。2014年、バレーボールの会場での試合観戦を禁止する決定がなされた。ところが約2年後、当局は禁止を撤廃し、観客席の特定のエリアでの女性の観戦を認めているのだ。この撤廃は、イギリス系イラン人の女子学生グーンシー・ガーファーミーが「反体制キャンペーン」を行ったという罪に着せられ、1年間投獄される判決を受けた後になされた。彼女は、バレーボールの試合会場への入場を試みたことで罪に問われたのだ。なんという恥ずべき犯罪だろうか!
ただし、サッカーとは対照的に、イランでは、女性たちもバスケットボールの場合、試合会場の特定エリアでの観戦を認められている。
保守派の決定を覆したW杯
サッカーの試合のスタジアム観戦を禁止することへの抗議として、一部の女性たちはときおり、試合の間じゅう、スタジアムの外に集まったり、男装して中に潜り込んだりしている。すでに、スタジアムでは禁止措置は崩壊状態になっていることを見ることができる。
彼女たちは、短い髪のかつらをかぶったり、付け髭したり、さらには頬にパウダーで髭を描いたりして、侵入を敢行している。このように、試合を観戦するために警備の目をごまかそうとしているのだが、しかし多くの場合こういった試みは失敗に終わっている。そして、逮捕された女性たちは裁判にかけられたり、なかには投獄されたりするものもいる。
イラン当局はスタジアムでの女性の観戦を禁止することだけで満足していない。2018年、ロシアでのワールドカップが開幕して数時間後、公共の場でワールドカップの試合を観戦すること(*いわゆるパブリックビューイング会場での観戦のこと)を禁ずる決定をくだしたのである。理由は、女性が観戦する恐れがあるというものだった。テヘラン州知事のモフセン・ハムダーニーの治安・政治担当の補佐官は、このことについて次のように正当化した。
「男性と一緒に女性が試合を観戦するというのは、女性にとって問題であり、苦難でもあるからです」
だが、イラン人女性に対する制約を課すことに対する国内外からの抗議の波を受け、当局は、ワールドカップでの対スペイン戦、そしてポルトガル戦を(*パブリックビューイングで)観戦するため、アザディ・スタジアムの観客席への女性の入場を認めた。両試合は、巨大スクリーンを通して同スタジアムで中継された。この39年で、アザディ・スタジアムに女性の入場が認められたのは初めてのことだった!
チームを応援する権利
男子の試合のスタジアム観戦を認めない当局が、外国人女性が入場することは問題ではないとしているのは、奇妙なことである(*国際試合では、対戦相手側の女性サポーターの入場が認められている)。当局が採るこの相反する政策は、イランの女性たちの怒りをかっている。それで彼女たちは国際試合のときは、外国人のふりをすることでスタジアムに潜り込もうとしている。国家の意思は、自国民にしか適用されない。国民でない人たちにとっては関係のないことなのである。
イランの女性たちは、他の中東諸国の女性たちに比べてより多くの自由を享受しているとはいえ、同国の宗教的傾向は「保守的」なので、その自由は制限されてきた。イランの女子サッカーの競技人口は2万3000人である。このことは、イランの女性たちがサッカーに注目していることを示す最大の証しである。男性と同じように女性も、スポーツに熱狂するし、彼女たちにも、たとえそこが自宅であれ、カフェであれ、そしてスタジアムであれ、自分たちのチームを応援する権利があるのだ。
コメント
[…] スタジアム観戦をめぐるせめぎ合い イラン より […]