アジアカップでシリアが躍進する?

アジアカップ開幕が迫ってきました。今回紹介するのは、シリア代表の現状に関する様々な意見を紹介した、DW(ドイチェ・ヴェレ)というドイツメディアの記事です。

記事のタイトルに「代表チームをめぐる分裂」とあったので、ここにきてなんか深刻な問題でも発生しているのかと思って読んでみました。

ところが、内容的には、一昨年のワールドカップ予選当時から言われてきたことのくり返しです。政権が、サッカーの代表チームを自らのプロパガンダに利用している。そんな代表は応援できないといった声がシリア人の中にはある、というもの。本ブログでも何度か紹介した議論です。

おそらく現在もそういった声が根強くあるのは事実なんだと思いますが、ここにきて何か新しい事態が生じているわけではなかったようです。

というか、記事のタイトルに反して、本文の中では、スポーツと政治の関係に関する議論は、いまのシリアではほとんど聞かれなくなっている現状が指摘されています。

アジアカップ。日本ではあまり一般に話題になることは少ないようですが、シリアではかなり注目が集まっているようです。

年末にUAEのアブダビで、シリア代表はイエメンとのテストマッチを行ったのですが(結果は、オマル・フリービーン選手が見事なフリーキックを決めて1対0でシリア勝利)、スタジアムには大勢のシリア人サポーターがつめかけている様子をSNSで目にしました。今回の記事でも、多くの人が思いもしないような驚きをシリア代表がもたらしてくれるかもしれないと結ばれています。

期待が高まっているだけに、グループリーグで早々に敗退なんてことになったときの反動がちょっと心配になりますね。

下の写真は、ロシア・ワールドカップ予選のアジアプレーオフ第1戦、シリア対オーストラリア戦でのスタジアムの様子(2017年10月5日、マレーシア・マラッカ)
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アジアカップに挑むシリア 代表チームをめぐる分裂と歴史的好成績への期待

掲載紙:DW(アラビア語版)
掲載日:2018年12月23日
執筆者:イスマーイール・アッザーム
URLhttps://www.dw.com/ar/سوريا-في-كأس-آسيا-انقسام-حول-المنتخب-وتطلع-لكتابة-التاريخ/a-46791378

(*は訳注 小見出しの一部は訳者によるもの)

ロシア・ワールドカップ予選で高いレベルの力を示したシリア代表が、今度はアジアカップ2019で輝かしい結果をめざしてのぞむ。だが、政権支持派と反体制派との間の論争が、チームに影を落としている。反体制派は、サッカーと政治を完全に切り離すことを求めている。

「破壊と戦争」のイメージ変える

ここ数年間、シリアという名前は、破壊や戦争、国際的な権力抗争と結びつけられてきた。ところが、オマル・スーマら代表チームの選手たちが、ロシア・ワールドカップ予選でアジアプレーオフに進出したことで、シリアサッカーに対する注目が高まっている。

オーストラリアと対戦したアジアプレーオフでは、延長後半にオーストラリアのFWティム・ケーヒルがゴールを決め2対1とし、2試合合計スコアでオーストラリアが3対2で上回らなければ、シリアが、CONCACAF(*北中米カリブ海サッカー連盟)のチームとの大陸間プレーオフに進めたかもしれなかった。

シリアとオーストラリアの対戦は、ワールドカップアジア第3次予選のグループAで、シリアが3位に入ったことで実現したものだ。また、3次予選に進出したことで、UAEで行われるアジアカップ2019への出場権を獲得した。ワールドカップ予選がアジアカップ予選も兼ねていたからだ。

集まる同情

シリア代表は、多くの人々から同情された。というのも、チームは、国内が戦争状態であることを理由に、予選の全試合をシリアから遠く離れた国で行わねばならなかったからだ。また、国内のリーグ戦が混乱してたため、代表選手の選定も簡単なことではなかった。

順当にいけば、シリアがアジアカップで決勝トーナメントに進出する可能性は高い。グループリーグの抽選の結果、シリアはグループBに入り、ヨルダン、パレスチナの他、オーストラリアと再び対戦することになっている。

スポーツと政治の間

しかし、「カシオンの鷲」(シリア代表の別称)に対する同情は、全国民的なものではなかった。代表チームを応援することを拒否した人々がいるのだ。彼らはアジアプレーオフでは対戦相手のオーストラリを応援しさえしていた。

理由は、代表チームはシリアの体制側を代表しており、体制側のプロパガンダの目的で、チームは利用されているというものだ。この戦争においては、反体制派や国際社会はバッシャール・アサド大統領の退陣をくり返し要求している。

代表チームの存在をめぐっては、古くからあるいは今も、サッカーの政治との関係性について議論が行われている。スポーツと政治の関係は建前では別物であるとみられているが、深部には別の面が隠されている。

軍関係者で占められるサッカー連盟

この件に関して、ドイツでプレーしているシリア人のジャーン・ラマダーン氏(トレーニング段階のため所属クラブなし)は、DWアラビア語版の取材にこたえ、次のように話す。

「シリア代表を管轄する当局者たちは、チームを政治の枠組みにはめ込んでいるんです。国民にとってこの状況は望ましいものではありません」

その上で、ラマダーン氏は、当局者を批判して、彼らのほとんどは、軍人出身であり、サッカーに関わってきた人たちではないと言う。

「代表チームはある特定集団の占有物ではないんです。そうではなく、すべてのシリア人の財産のはずです」

歓喜の声の前に消えた批判

しかしながら、ジャーン・ラマダーン氏によると、シリア代表が国民を代表しているかどうではないかといった議論は、今ではほとんど行われていないと言う。

「この議論は過去のものです。最近はというと、多くの人たちは代表について関心を持つようになり、その成績に歓喜するようなっています。国民は歓喜したいんです。とくにかつて反体制派を支持していた選手たちが合流している現在の代表チームをね」

DWアラビア語版では、シリアサッカー連盟にコンタクトを取りコメントを求めた。だが、質問項目を連盟に送って1週間になるが、何の返信もない。

シリアサッカー連盟をFIFAが承認している問題

一方、エジプトのスポーツ評論家ハサン・ムスタカーウィー氏は、スポーツと政治に関する議論は、「アラブの春」以降、中東地域では何度もくり返されてきたことを指摘する。また、多くの為政者たちが自らのイメージアップのため、スポーツを利用してきたことは、歴史が示していることだと言う。しかしながら基本的に、「代表チームは祖国を代表するのであって、為政者のためのものではない」と話す。

また、ムスタカーウィー氏によると、シリアで起こっていることは政治ではなく、「軍事的な紛争」だという。こういった状況の中、体制側と戦うために武器を手にしている人々が、政府に属するサッカー連盟が管轄する代表チームを応援することは決してないと話す。

このエジプト人評論家は、国際サッカー連盟(FIFA)やその他の国際的スポーツ機関が、シリア代表を管轄する組織としてシリアサッカー連盟を承認していることに、注意を促している(*FIFAらがシリアサッカー連盟をシリアを代表する組織として扱っているのは不当だ、と言いたいのだと思います)。

連盟のバックアップで強化進む

政治的議論とは別に、アジアカップにおいてシリアが輝かしい結果を残すことができるかどうかといった多くの議論が行われている。

シリアサッカー連盟は、代表監督としてドイツ人のベルント・シュタンゲ氏と契約を結んだ。最近のシリアからの報道によると、連盟は代表を財政的、広報的に支援し、オーストリアでのトレーニングキャンプも行っている。キャンプ期間中に行われたテストマッチの内容は、不安定なものだった。しかし、サッカーの専門家がいつも強調するように、テストマッチの結果というものは、必ずしも、公式戦の結果に結びつくものではないのである。

ワールドカップ予選から https://www.dw.com/ar/سوريا-في-كأس-آسيا-انقسام-حول-المنتخب-وتطلع-لكتابة-التاريخ/a-46791378より

シリア代表の実力は本物か

CNNアラビア語版のスポーツジャーナリスト、アビーダ・ナーフィウ氏によると、シリアは、決勝トーナメントに進出する力を持っている。選手たちのレベルは高く、テクニックや戦術にも注目すべきものがある、と言う。

そして、好成績を残せるかは、精神的にもよい準備ができるかにかかっており、だからシリアのファンたちは、「多くのことを望むのなら、選手たちにプレッシャーを与えるような過剰な期待をかけないようにしなければならない」と続ける。

ナーフィウ氏は、シリア代表がワールドカップ予選での結果は、偶然の産物ではない、予選の各試合において、チームは素晴らしいレベルにあることを証明した、と話す。

しかし、ジャーン・ラマダーン氏(*前出のドイツでプレーするシリア人選手)は、あの好成績は「幸運以外の何物もない」と言い切る。シリア代表は、FWにはよい選手がそろっているが、中盤やDFはそれほどでもない。また、戦術的にもいくつかの問題を抱えている、と指摘する。

一方、ハサン・ムスタカーウィー氏(*前出のエジプトのスポーツ評論家)は、現在のチームの技術的進歩は驚くべきものであるが、選手たちの愛国心と祖国の国旗を背負うことへの思い、この二つが、そのことにおいて大きな役割を果たしてきた、と見ている。また、ワールドカップ予選でわれわれが目にしたような進化を選手たちが今後も続けていけば、「カシオンの鷲」(前出:シリア代表の別称)がアジアカップで大きな成功を収めることは間違いないだろう予想する。

アジアカップは来月(*2019年1月)初旬、UAEで開幕する。おそらく、シリア代表選手たちは、多くの人たちが思いもしなかった驚きをもたらしてくれるだろう。

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