軍部と党の支配、腐敗と縁故主義の蔓延 シリアサッカーは復活するか(2)

前回に続き、アジアカップでのシリア惨敗の背景に関するレポート「世界は進歩する中なぜシリアは停滞するのか」の2回目です。

シリアスポーツ界のプロ化の現実と、プロ化の支障となっている軍部やバアス党のスポーツ支配のことが触れられています。また、惨敗の理由に関する読者アンケート調査の結果も記されています。

(下の写真:アジアカップのグループBの最終戦オーストラリア対シリア戦を観戦するシリアの女性ファン)
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世界は進歩する中なぜシリアは停滞するのか…シリアサッカーは復活しない(2)

掲載紙:イナブ・バラディー
掲載日:2019年2月3日
執筆者:ムハンマド・ホムス、ムラード・アブドゥルジャリール(イナブ・バラディー調査班)
URL:https://www.enabbaladi.net/archives/280135

(*は訳注 小見出しは訳者によるもの)

逸脱したプロ化

シリアスポーツ界のプロ化の実情は、選手や指導者、あるいは管理部門の担当者が直面する最もややこしい問題の一つだと言われている。というのもその競技でプロとしてキャリアを続けることを不可能とする数々の壁が存在するからである。

シリアに真のプロスポーツは存在するのか

クラブレベルでも、代表チームレベルでもシリアスポーツ界は、未整備の投資環境においてプロスポーツ化する一歩手間で立ち止まっている。法令の整備も含め2010年に着手されたプロ化は、シリアのスポーツ部門を統括する指導部(*バアス党地域指導部のことだと思われる)にとって都合のいいことをのぞけば、実施に移されることはなかった。しかもそのことはシリアの様々なクラブチームに否定的な影響をもたらしている。すなわち、富める者はますます豊かに、持たざる者はますます困窮することになっている。

シリア代表の元アシスタントコーチ、ターリク・ジャッバーン氏はこのことについて、政府系紙「ティシュリーン」でこう述べている。

シリアサッカーは真のプロの概念からかなり遠いところにいる。現在のプロ化は、選手にとって基本的に、一定の報酬額に達する契約のことである。つまりクラブと選手が契約を交わせば、シリア国内ではプロとみなされているのである。

イッティハード(*アレッポに本拠を置くシリアの名門クラブの一つ)所属の元選手で、代表選手でもあったアブドゥル・カーディル・アブドゥル・ハイイ氏は、「イナブ・バラディー」の取材に応え、次のように分析する。

シリア選手のメンタリティーは真のプロ戦選手のそれとはほど遠いのが現状であり、所属クラブでも代表チームでもそれは同様だ。つまり、シリアにおけるプロ化は「名前だけ」なんだと言う。

国外移籍した選手が成長する理由

アブドゥル・ハイイ氏は続ける。

「シリアのプロスポーツ選手のメンタリティーは視野が狭いのです。それはクラブチームでも代表チームでもそれを支配する当局者の存在があるからです。軍部やバアス党指導部の存在です。彼らはスポーツとは無関係な人たちです。選手たちは国外のクラブに移籍したとき、そのことに気づくのです。そこではチームはプロフェッショナルなビジネスとして開かれた存在だと見られているからです。だから国外に出た多くの選手たちは成長するわけです」

そして、こう付け加える。

「国外に移籍した一部の選手たちは、プロ化が進んでいるアラブ諸国やヨーロッパのクラブに所属するようになると、プロフェッショナルの意味を認識するようになる。そういったクラブでは、契約書で定められているどの条項でも違反した場合、罰金が科せられることになります」

また、「自由シリアサッカー連盟」のナーディル・アトラシュ会長は、イナブ・バラディーの取材にこたえ次のように話している。

(*2010年に)制定されたプロ化法は、ヨーロッパ諸国にあるような近代的な法律だった。ところが、バアス党地方指導部のスポーツ指導部はこれを進めようとしなかった。しかも法律の普及を妨害した。ファンたちは、党地方指導部から切り離された独立した運営権を持つクラブをすでに支持しているから、というのが理由だった。そして、だからプロ化法はファンたちから多くのものを奪ってしまうことになり、こういう状況の中、バアス党はスポーツ界を支配し続けることはけっしてないのだ、と言うのである。

アトラシュ会長によると、シリアのプロ化法は形だけ施行された。法律は期待されたこととは逆に、各クラブにとって重荷となってしまった。ビッグクラブはより大勢の選手たちとの契約を交わし、外国人選手も獲得することができたが、逆に、弱小クラブは、抱える選手たちとの契約を更新するために、苦労することになったのである。選手たちは契約時において、自らの利益を求めることになったからである、と話す。

プロ化を阻む軍隊文化と縁故主義

元選手のアブドゥル・カーディル・アブドゥル・ハイイ氏の見方によると、シリアにはプロフェッショナルはまったく存在しない。あるのは、「真のプロスポーツビジネスからの逸脱だけだ」と言う。本来のプロスポーツビジネスというのは、選手側クラブ側双方が契約書条項などに基づいてことを進めることが義務付けられたものだ

また、アトラシュ会長は、もしプロ化法が正しく運用されていれば、クラブレベルでも代表レベルでも、シリアのスポーツ状況、たとえば、クラブの実情はもちろん、テレビ放映や契約の自由においても、全般的に活性化していたはずだと見ている。

プロのメンタリティーの欠如により、クラブや代表チーム内に軍隊文化や縁故主義が反映するのは当然のことだ、とアブドゥル・ハイイ氏は言う。

その上で、それは、アジアカップ期間中、代表チームのキャンプテンの変更の際に生じた事態をはじめ、多くの事例があると指摘する(*アジアカップのグループステージの2戦目を終えた直後、シリア代表の監督をつとめていたドイツ人のベルント・シュタンゲ氏が解任されたが、同時にチームキャプテンも変更となった。その際いろいろとごたごたがあったようなんですが、具体的な事情は知りません)。


調査結果:代表チームの発展を阻む腐敗と縁故主義

イナブ・バラディーがインターネット上で実施したアンケート調査によると、シリアのファンたちは、アジアカップでシリアが敗退した主要な要因は、腐敗と縁故主義によるものだと考えていることが明らかになった。

シリア代表の敗退の原因に関するアンケート調査に対し、約200人が回答を寄せた。回答者の78%が、腐敗と縁故主義が主要な要因だとし、約13%が、プロとしてのメンタリティーの欠如をあげた。残り9%は、サッカーの能力の欠如と回答した。

解説者の一人、ラーミー・スワイディー氏は、イナブ・バラディーのFacebookのページを通して、この質問に関して、選択肢は3つとも正しい、と言っている。一方、ジャマール・ムスタファー氏(*おそらくこの人も解説者)は、バアス党指導部がいる限り、「シリアにはスポーツなんて存在しません」とみている。そして、ほとんどの解説者は、各スポーツ競技団体を運営する担当者たち、彼らの存在こそが主要な問題だという見方で一致していると言う。

ガッサーン・クライムシュさん(*一般のアンケート回答者の一人だと思います)は、シリアサッカーは以前はアラブでトップレベルだったし、スポーツ全般が活発に、先進的に行われていたとし、こう言う。「それらを破壊したアサド体制になるまではね。様々な才能ある選手がいたにもかかわらず、各競技の代表チームは、体制に忠誠を誓い、従属することを厳格に求められるようになったのです」

シリアの敗退に関するアンケート調査のページ

 

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