選手も迫害されているパレスチナ

FIFA副会長らが汚職容疑で逮捕されるという事件で完全にかすんでしまいましたが、今年5月末に開催されたFIFAの総会では、イスラエルの資格停止処分を求める提案について協議されることになっていました。

提案はパレスチナサッカー連盟によるもので、イスラエルがパレスチナの選手のヨルダン川西岸地区=ガザ地区間の移動を妨害していることを理由にしています。以前からパレスチナ選手の国内外の移動をイスラエルによって妨害され、国外遠征もままならないといった話は耳にしていました。また、昨年はパレスチナサッカー連盟の事務所をイスラエル軍が襲撃するという事件も報じられています。

FIFAのブラッター会長は、パレスチナに対し、この提案を取り下げるよう働きかける一方、イスラエルとパレスチナとの間の緊張を緩和するため、親善試合の開催を呼びかけたということです(サッカーで対立緩和へ…FIFA会長がイスラエルとパレスチナの親善試合を提案 | サッカーキング)。

一方が他方によって長年に渡って活動を妨害されている現状をそのままにしておいて、試合をすることの意味はなんなんでしょうか。ただし、メディアでは、イスラエルの妨害行為が報じられることはほとんどないというのに、このブラッター会長の提案はけっこう好意的に取り上げられていました。

結局、具体的な事情はわかりませんが、パレスチナサッカー連盟が、総会直前になって提案を取り下げたため、資格停止処分について公式に論議されることはありませんでした。

今回紹介する記事は、パレスチナが提案を取り下げる前に書かれたものです。資格停止処分が決まった場合、イスラエルの全体的な政策が見直される可能性について言及するとともに、イスラエルが絡む問題に対するFIFAの弱腰ぶりを批判しています。

掲載紙はパレスチナで発行されているメディア(ネット専門紙か?)ですが、書いたのはギデオン・レヴィというイスラエルのジャーナリストです(ギデオン・レヴィ – Wikipedia)。Wikipedia日本語版にも載るほどの人ですから、国際的に知られたジャーナリストなのかな。


元記事URL

جدعون ليفي: آن الأوان لرفع الكرت الأحمر في وجه إسرائيل في الفيفا | شبكة اطلس سبورت

アトラス・スポーツネット
2015年5月18日

イスラエルにレッドカードを

ギデオン・レヴィ

はじめにはっきりと言っておかなければならない。わたしはFIFAにおいてイスラエルの資格停止の措置が取られることを望んでいる。

今月29日、FIFAがパレスチナが求めているように、イスラエルにレッドカードをつきつけると、競技の原則を変え得る事態、そして結末を予想できない一連の反応が起こり得る事態が発生することになるだろう。もしそうなればそれは、サッカーというものが重要な変革を起こし得る役割を果たすことを意味することになる。

また、ついにイスラエルに対し、占領の代価を支払わせる日がやってくることを意味する。同時に、イスラエル国民の名のもとに犯してきたこと、国民がこれに関与し、煽り、資金を提供してきたこと、それらすべてに対する罰を負う日がやってくることを意味する。さらにこれはまた、イスラエルが国際法をぞんざいかつ傲慢に扱い、長年にわたってこれを侵害してきたことに対して代価を払うことを意味するのである。

イスラエルがその行いを変えるに至るまで、サッカーの国際大会への同国の参加を禁止する以上に高い代価というものがあるだろうか。

大会への参加禁止措置は、過去においてすでに成果が証明されている。人種隔離政策をとる南アフリカ政府に対し、国際的なボイコット運動が行われたときだ。FIFAから南アが排除されたことは、南アの政権自体を崩壊に導く決定的な要素の一つとなった。この措置はイスラエルに対しても成功し得るであろう。

FIFAにおけるイスラエルの資格停止の決定に対する第一の反応は、もちろん、イスラエルが表明する広範囲にわたる抗議だろう。彼らは被害者のように振る舞い、こんな表現で一丸となって反対運動に火をつけることだろう。

「イスラエルに対して憎悪を燃やす、あいつら反ユダヤ主義者たちを見てみろよ。われわれはたった一人で生存のためにたたかっている国家なんだ。世界すべてがわれわれの敵だ!」

もちろん、ホロコーストの記憶がこの反対運動に影響を与えていることは間違いない。政治家たちや日和見主義者たち(訳注:イスラエルの主張に絶対逆らわない人たちという意味合いかな)は競い合って怒りの声明やコメントを発表するであろう。また、シオニスト陣営のリーダー、アイザック・ヘルツォークも登場し、このような状況において反対派、賛成派で分裂することなんて許されない。イスラエルへの攻撃に対し、一つの国民として団結しなければならないなどと、われわれに忠告するであろう。

おそらくイスラエルは、パレスチナのサッカーを非合法の活動と見なすようになるだろう。また、イスラエル国防軍は、サッカーボールを持っている子どもは誰であっても逮捕するぞと脅迫のような強硬な命令を下すであろう。そしてきっと、ガザの競技場は武器の隠し場所だという口実をつけてぶち壊し、またおそらく、イスラエル軍は、パレスチナサッカー連盟会長ジュブリール・ラジューブのオフィスを(ブルドーザーを使って)更地にしてしまうだろう(こういったことは初めてのことではないはずだ)。

チェコ共和国やカナダはイスラエルとの親善試合を企画するだろう。一方、シモン・ペレス(訳注:イスラエルの前大統領)はおそらく、ミクロネシア(訳注:ミクロネシアはFIFA未加盟)とパレスチナの試合をアレンジするであろう。

しかし、資格停止から数か月経つ頃には、これによる圧迫はイスラエルに影響を及ぼすようになり、イスラエルは世界のサッカー界から排除され、外交的ないかなる手立ても取れずいることだろう。すると、大きな疑問、疑念が浮かんでくるはずだ。悪魔の島から帰還するために、イスラエルがし得ることはなんだろうか? なんだってあいつらはイスラエルにこんなことをやるのだろうか? いやそもそも現状はこういった資格停止措置に値することなんだろうか? 実際、占領を続け、その代価を払い続けるだけの価値があるのだろうか? その代価はどんどん膨らんできているじゃないか。イーティマールやヤティズハールの入植地は(停止措置解除のため)放棄するに値するものだろうか?

FIFAはこのような制裁や禁止を課す最後の機関ということにはならないだろう。FIFAは開始のホイッスルを鳴らすだろう。それは世界のいくつもの国々がジリジリしながら待っていたホイッスルである。

このように、イスラエルにとって耐えられる以上の重い代価となったとき、イスラエル国民の多くは、自らの愚かさに気がつくだろう。FIFAがこの措置を取らなければ、彼らはこの愚かさに気づかされる機会をもたなかった。彼らにそうさせる理由となるものはないのだ──彼らにとって毎日の生活はすばらしいもので、彼らの社会には、考えを改めなければならないような、いかなる問題も存在していないとされているのである。

サッカー界での禁止措置で、誰一人死ぬことはないし、ボイコット運動で一滴の血も流れることはない。それは正義を根付かせ、国際法を適用させるための合法的な武器なのである。イスラエル自身、過去にボイコット運動をやってきた。今も急き立てるようにしてそれをやっている。ハマスに対する、またガザに対する、そしてもちろん、イランに対するボイコット運動である。たとえイスラエルの意思に反するものであったのかもしれなが、南アフリカに対するボイコット運動さえにも、参加していた。そして今、イスラエルがボイコットされる番になったのだ。

イスラエルがこれまで何度も何度もイエローカードを受けながらも、何もなかったかのように自由に振る舞い続けてきたことを、誰も否定できないだろう。イスラエルが何百万人ものガザの市民を監禁していることは、レッドカードを受ける理由にならないのだろうか? そのガザ市民の中にはサッカー選手も含まれているのだ。

FIFA会長のブラッターは自分がかつて輝かしい未来を約束した、ムハンマド・アルカタリー選手のことを覚えているだろうか。アマリ難民キャンプの出身で、ラマラ(訳注:ヨルダン川西岸の都市)のブラッター・サッカーアカデミー(訳注:FIFAが途上国などを対象に行っているプログラム)の生徒のことである。ブラッターは彼がイスラエル国防軍の銃弾の犠牲になったことを発表するだろうか。ムハンマド・アルカタリーはガザにおける最近のイスラエルの攻撃に反対する抗議デモの最中、胸を撃ち抜かれて殺された。あれは犯罪ではなかったのか。

イスラエルは今、醜くゆがんだ外交の仮面をかぶっている。イスラエルが制裁を受けることを阻止するため、必死になっている。そしてその必死の努力はおそらく今回もまた成功するだろう。だが、われわれは今こう問いかけるときを迎えているのである。「いつまでこんなことを続けるんだ」と。

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