カタールW杯をめざすアジアのたたかいはまもなく(2022年3月)、クライマックスを迎えます。ご存じの通り、今回のシリア代表は、2次予選こそ余裕で勝ち抜いたものの、最終予選(3次予選)では、これまで8戦してまだ1勝もあげることができず、グループAの最下位に沈んだままです。
昨年(2021年)11月に、ルーマニア人監督を招き、チームの立て直しを図りましたが、1月のUAE戦、2月の韓国戦(いずれもUAE・ドバイで開催)で連敗を喫してしまったことにより、プレーオフ進出の可能性も完全に消滅してしまいました。
代表チームが不振に陥ってしまうと、シリアではありがちなのが内紛といいますか、内部矛盾の表面化です(シリアに限らずどの国でも似たようなものでしょう)。ただ、いつもでしたらファンを巻き込んだ監督批判、サッカー連盟批判という形でなされるのですが、今回はちょっと異質なんです。長年にわたる戦争や国際的な経済制裁に苛まれている国内の窮状を反映するかのような内部告発が、チームの正GKで国民からの人気も高いイブラーヒーム・アールマ選手からなされたのです。
以下、反政府系ネットメディア「イナブ・バラディ」の記事から紹介します。
عالمة يتحدث عن “كراتين ممنوعة” حملها لاعبو سوريا من الإمارات – عنب بلدي
اللجنة المؤقتة بعد الاجتماع مع عالمة: هناك خلل إداري في المنتخب – عنب بلدي
(下の写真:2022年2月1日にドバイで行われたアジア最終予選第8節、シリア対韓国戦でプレーするシリア代表のオマル・フリービーン。アールマによると、不足するチームのメディカル物資調達のため、フリービーンがUAE代表チームと掛け合ったという)
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謎の「段ボール」
シリア代表の正GK、イブラーヒーム・アールマは2月16日(2022年)、シリアのローカル放送局マディーナFMの番組に出演し、シリアサッカー連盟や代表チームの腐敗を暴露し、大きな波紋を呼んでいる。
シリア代表は、1月、2月の試合に向けてUAEで合宿を行っていた。2022年2月17日配信の「イナブ・バラディ」によると、帰国する際、一行の荷物の中にはチームや連盟とは関係のない段ボール箱が持ち込まれていたのだという。
「一部の選手が運び屋をさせられました。彼らは選手あるいは連盟の備品だと聞かされて運ばされていたのですが、実はそんな荷物ではなかったのです」とアールマは話した。
アールマがチームの担当の責任者に、あなたはこれら中身不明の段ボールを持ち込むことを承知しているのかとただすと、この責任者は、会社(なんの会社かは不明)から中身の記載のない段ボールが届き、持ち込むことを依頼されたとこたえた、という。
アールマによると、シリアスポーツ総連盟(サッカー連盟の上部機関でシリアのスポーツ組織全般を統括する。現在、スポーツ総連盟とサッカー連盟の一部が反目しているとみられる)の内部には、自らの「よからぬ計画」を維持するために、アールマや複数の選手たちを代表から排除しようとする勢力が存在しているのだという。
連盟はインターネットやSNSを担当する一部の人々により影響を受けており、彼らはチーム内を不安定化させたり、ファンと選手との間に不和を作り出しているとも語った。
メディカル関係の物資も事欠く
アールマは、連盟が選手からの基本的な要望にもこたえられない実態も暴露している。
「イナブ・バラディ」によると、選手は、医療関係物資の整備、移動の予約確保、最低限のアメニティの確保などを求めたが、いずれも改善されなかった。
そのため、医療関係物資はオマル・フリービーン(チームの主力選手の一人。現在UAEのクラブに所属)の仲介でUAE代表に提供を依頼し、それ以外の不足している備品などはオマル・スーマ(同じく主力の一人。現在サウジアラビアのクラブ所属)が援助していたとのことだ。
また、チームの移動の航空チケットは、シリア国内に就航している航空会社があるにもかかわらず、レバノンの旅行会社を通じて購入しているため、コストが割高になっているなんてことも話している。
サッカー連盟の資金を横領?
さらにアールマは、現在国際制裁により凍結されているFIFAからシリアサッカー連盟への資金についても言及、2017年時点で700万ドルあった資金が、現在は200万ドルしか残っていないと話している。
サッカー連盟、不正を認める
アールマの内部告発は大きな反響を呼んだ。2月21日、シリアサッカー連盟暫定委員会(連盟の執行部は昨年、会長はじめ理事が現在総辞職したままのため解散状態にある)はアールマから直接事情を聞いた。同日委員会が発表した声明によると、シリア代表内部に正さなければならない管理上の瑕疵(かし)があることを正式に認め、サッカーの利益のため取りうるべき措置をすべて取ることを表明した。
スポーツ総連盟「アールマ処分の意思なし」
一方、アールマの内部告発が放送された直後、スポーツ総連盟はアールマに対して何らかの報復措置を取る可能性があるとみられていたが、2月19日声明を出し、処分することはないと明言した。
「イナブ・バラディ」(2022年2月21日配信)によると、声明では、「アールマは代表チームとともに歴史を作ってきた選手で、その功績は何人も否定できないものだ」と述べ、「連盟事務局として、アールマに対していかなる処分も行う意思はない。処分するのではという噂はまったく根拠のないものだ」と強調した。
「イナブ・バラディ」の記事は、「シリアのスポーツ機関は、反政府派から政府の手先だとみなされ、『腐敗と縁故主義』で広範な人々から批判を受けている」と締めくくっている。
アールマ発言をめぐる「イナブ・バラディ」の記事の紹介は以上の通りです。アールマの発言で気になるのは、段ボールは、だれが何のために何を持ち込んだのかということですが、記事には言及がありません。おそらくアールマ自身も話していないのではないかと思います。
また、サッカー連盟の資金横領(?)については、事実だとするとはるかに深刻な問題ですが、具体的なことは記事から知ることはできませんでした。いずれにしても、シリアが最終予選で不振なのもむべなるかなと思わせる内部告発だと感じました。
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