今月(2022年3月)24日、27日にカタールW杯アジア最終予選の最後の2節の試合が開催されます。出場権獲得(各グループ2位以上)、プレーオフ進出(各グループ3位)をかけたたたかいとは別に、おそらく世界の関心を引くと思われることがあります。W杯予選では30数年ぶりに、イラク代表が自国内で試合を行うことになっているのです。
一大決戦 会場はバグダッド
第8節終了時点のグループAの順位表は以下の通り。すでにイランと韓国が2位以上を確定させているため、プレーオフに進出できる3位の座をめぐって、勝点9のUAE、同6のレバノン、そして同5のイラクの3チームが争っています。イラクは最終予選に入って未だ勝利がありません。とはいえ、3位に入る可能性がないわけでもありません。
今後の対戦カードは、第9節でイラクとUAEが直接対決、レバノンはシリアと、第9節ではUAEは韓国、レバノンはイラン、イラクはシリアとそれぞれ対戦します。UAE、レバノンの最終戦の対戦相手がともに勝利することがかなり難しいと思われる強豪です。そう考えると、イラクが第8節でUAEに勝利すれば、プレーオフ進出の可能性がかなり広がるといった状況です。逆にいうと、イラクは2連勝することが絶対条件となります。
いずれにしろ、一大決戦となるUAE戦を30数年ぶりにホームでたたかえるわけで、国内は大いに盛り上がっているんじゃないかと思います。
順位 | チーム | 勝 | 分 | 負 | 得点 | 失点 | 差 | 勝点 |
1 | イラン★ | 7 | 1 | 0 | 13 | 2 | 11 | 22 |
2 | 韓国★ | 6 | 2 | 9 | 11 | 2 | 9 | 20 |
3 | UAE | 2 | 3 | 3 | 6 | 6 | 0 | 9 |
4 | レバノン | 1 | 3 | 4 | 5 | 8 | -3 | 6 |
5 | イラク | 0 | 5 | 3 | 4 | 11 | -7 | 5 |
6 | シリア | 0 | 2 | 6 | 5 | 15 | -10 | 2 |
2022年2月2日|第8節全試合終了
★はW杯出場決定
(下の写真:アジア最終予選、2022年1月27日にテヘランで行われたイラン戦でのイラク代表。試合はイランが1−0で勝ち、W杯進出を決めた)
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FIFA禁止措置解除
ということで、カタール紙「ラーヤ」が2022年3月1日に掲載したQNA(カタール通信社)の配信記事からバグダッド開催に漕ぎ着けるまでを紹介します。
الجماهير العراقية تتشوق للمباراة الرسمية الأولى لمنتخبها في بغداد – جريدة الراية
イラクでは1990年以来、国際サッカー連盟(FIFA)により国内での国際試合の開催がほぼ完全に禁じられてきました。そのためファンたちはずっと「メソポタミアのライオン」(イラク代表の愛称)のプレーを観戦することができないでいます。
イラクはW杯予選などホームゲーム扱いとなる公式戦は、カタールなどの第三国で開催せざるを得なかったのです。このあたりの事情はシリア代表も同様です。
2016年に入り、ようやく国際試合開催が一部解禁され、バスラ、アルビル、カルバラなどといった都市に限定された形ですが、親善試合の開催は部分的に認められるようになりました。その後もクラブチームレベルの公式戦や年代別代表の国際大会の開催など禁止措置の枠は徐々に緩められてきていました。
そして今年(2022年)2月、FIFAはついに、W杯アジア最終予選第9節のイラク対UAE戦を首都バグダッドにあるマディーナ国際スタジアムで開催することを承認したのです。
イラクのイメージを覆したサポーター
「ラーヤ」によると、イラクサッカー連盟のアドナーン・ディルジャール会長は、「今回のFIFAの決定は、最近バグダッドでのウガンダ代表との国際親善試合の開催を見事なまでに成功させたことを受け、なされたものだ」と話しています。
同時に、同会長は、アラブサッカー連盟やアジアサッカー連盟、それに湾岸協力会議の後押しとともに、これまでバスラやカルバラ、アルビルで行われてきた親善試合において、イラクに定着している負のイメージを覆すイラクのサッカーファンたちのはたらきが大きかったと述べています。
さらに、昨年(2021年)11月から12月にかけてバグダッドとバスラを会場に開催された西アジアユース選手権2021(おそらくU18の大会とだと思います。決勝戦はバグダッドで行われイラクがレバノンを破り優勝している)の成功が解禁に向けての第一歩となって、2月のバグダッドでのウガンダ代表との親善試合(1−0でイラクの勝利)につながり、それが今回のFIFAの決定の大きな決め手となった、と明かしています。
ディルジャール会長は、試合に向けて準備すべきことは山のようにあるが、「われわれには国際試合を運営する能力があること、そして首都で試合を開催することはごく当然のことなんだと世界に証明してみせたい」と意気込みを語っています。
また、「ラーヤ」は、解禁は、イラクのスポーツ界の今後の復活の始まりの一歩となる。これをきっかけに、とくにスポーツインフラが整備され、成績向上にもつながる。そして、イラクサッカーも、アラブとアジアでそして世界で本来いるべきはずのポジションに戻ってくることになるだろう、とのサッカー連盟の期待を伝えています。
なお、イラクサッカー連盟は現在、UAEで行われる予定のアジア最終予選の最終戦となるシリア戦もバグダッドで開催できないかとシリア側に打診しているとのことです。しかしこれは、解禁措置にちょっと浮かれた提案だと思います。仮にシリア側が応じたとしても、プレーオフ進出を争う他のチームが認めることが考えづらいからです。
ホームアドバンテージ
一方、「ラーヤ」によると、元イラク代表選手のナイーム・サッダームは今回の解禁を、自分たちのスタジアムとファンのもとにイラク代表を取り戻すための多くの努力とたたかいの結果で、歴史的な出来事だと評しています。
その上で、ホームでそしてサポーターたちの前でのプレーは選手たちにとっては大きな鼓舞となる。近い将来再びイラク代表が表彰台に登るような成績を上げるようになるきっかけになるのではと期待しています。
さらに、「ラーヤ」はイラク代表の元監督ラーディ・シェナイシルのコメントも紹介しています。シェナイシルは、解禁はアジア最終予選でプレーオフ進出争いをしているイラク代表にとって絶好のタイミングだと見ています。
ホームで大勢のサポーターの前でプレーすることがチームにとって重要な要素であり、このことを戦略的に活用することができる。とくに、次戦で対戦するUAEは、プレーオフ進出争いをするライバルチームであり一大決戦となる。ホームでたたかえることは、チームと選手にとって大きな力となる、といった趣旨のことを語っています。
映像などでぼくが見る限り、イラク国内のサッカー熱は、クラブレベルだと大したことはないのですが、代表の試合となるとすごい熱気に包まれるようです。サウジアラビアやカタール、UAEなどでの試合とはちょっと異なる、どちらかといえばイランのスタジアムに似た強い圧力を感じる雰囲気になる、というのがぼくの印象です。今後、W杯予選の試合が常時イラク国内で開催されることになると、対戦チームにとっては大きな脅威となるのは間違いありません。
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