バグダッドでの開催突然の撤回

イラク
アルジャジーラ・ネットのサイト記事より

前回の投稿で、バグダッドに30数年ぶりにイラク代表が帰ってくると書きましたが、まさかの展開です。

3月24日(2022年)に行われるW杯アジア最終予選第9節、グループAのイラク対UAE戦の試合会場は、2月、いったんはバグダッドのマディーナ国際スタジアムで開催すると発表されましたが、FIFAは、試合1週間前の3月18日になってこれを撤回しました。サウジアラビア・リヤドにあるキング・ファハド国際スタジアムで行うとしたのです。

変更の理由としてFIFAは、イラク北部の都市アルビルが、イラン革命防衛隊によるミサイル攻撃を受けたことを挙げているようです。
イラク北部に弾道ミサイル攻撃 イランの革命防衛隊「報復」と認める(朝日新聞デジタル) – Yahoo!ニュース

イラクでは1990年以来、30年以上にわたってFIFAによる国内での国際試合禁止措置を受けてきました。2016年以降はそれは徐々に緩和されてきていましたが、W杯予選の試合の開催は認められてきませんでした。それが首都での開催が実現するということで大きなニュースとなっていたのです。

会場変更の理由はいまいちはっきりしないのですが、カタールの「アルジャジーラ」の記事(2022年3月18日配信)から、イラク側の反応を紹介します。
هل نقلت مباراة العراق والإمارات إلى أرض محايدة لأسباب أمنية أم سياسية؟ | كرة قدم | الجزيرة نت

歓喜から落胆

歓喜から一転、UAE戦の試合会場をバグダッドから第三国に変更するとのFIFAの決定(この記事配信時点で会場は未定だった)に、イラクの人々は不意打ちを食らった思いでいます。「アルジャジーラ」によると、「安全上の理由からイラク国外で開催するとのFIFAの新たな決定について、専門家らは、決定は政治的理由によるものだ」と受け止めているようです。

イラクサッカー連盟会長で、イラクスポーツ青年大臣もつとめるアドナーン・ディルジャールは、「アルジャジーラ」の取材に対し、「(バグダッド開催については)AFC、FIFAのいくつもの友好国、あるいはアラブ諸国からも最大級の支持が寄せられていた。各国とも、今回の会場変更の決定がイラクとイラク国民に対して大きなダメージを与えることをよく理解してもらっている。断じて受け入れられない」とし、「引き続き、FIFAに変更撤回を求めていく」と話しています。

イラクより危険にさらされている国では

「アルジャジーラ」によると、イラクオリンピック委員会もFIFA、AFCに対し、イラクがW杯予選の試合を開催している世界の他の国と比べても、安定しているし治安状況もよいと主張し、公正中立な扱いをするよう求めています。

別のイラクサッカー連盟の幹部は、FIFAの決定は矛盾している。イラクが1回か2回ミサイルで攻撃されたことを会場変更の理由としているが、脅威にさらされている国は、たとえば世界の金満国である湾岸諸国など、たくさんあるではないか、と怒りをあらわにしています。

同幹部によると、スポーツ仲裁裁判所への提訴などを含め必要な法的措置を取ることになるといっています。

FIFAの政治的な決定

一方、イラクのスポーツジャーナリスト、アドナーン・ラフタは、「アルジャジーラ」に対し、今回のFIFAの決定を、安全面を口実にした、真に政治的な決定だと評し、こう続けています。

「攻撃した側でなく、攻撃された側に懲罰が加えられるのか。FIFAはウクライナに侵攻したロシアに制裁措置を取っているじゃないか。ウクライナに制裁を科すのか、もちろんそんなことはしない。ではなぜ攻撃された側であるイラクが罰せられなければならないのだ」

またラフタはこうも指摘しています。

「イラク国内での国際試合禁止措置は法的な裏付けもなく続けられている。とりわけ、イラクは国連憲章第7章が規定する制裁対象から外れているのだ。この国は、国連と国際社会の承認のもと、独立して安全な国になっているということだ。FIFAは自らを不正と不正義と不公正な渦中に沈めてしまった。これは国際的な庇護者であり、人権活動の支援者であることが託された自らの重みを失わせるものだ」

なお、ラフタが言う国連憲章第7章では、「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」を定めたもの。国連安保理は、平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為の存在を決定し、勧告を行うとともに、非軍事的強制措置・軍事的強制措置をとるかを決定することができるといったことを規定しています(国際連合憲章第7章 – Wikipedia)。

勝利か試合放棄か

「アルジャジーラ」によると、別のスポーツジャーナリスト、サフワーン・ガンニーも、「FIFAの決定は恣意的で不正に満ちたものだ」と批判し、政治的、スポーツレベル双方で決定を変えさせる働きかけの強化を呼びかけています。その上で、こんな提案もしています。

「もしFIFAが決定に固執した場合、イラク代表には二つの選択肢がある。一つは、第三国でのUAEとの試合を行い、勝つこと。これが(FIFAに対する)最高の回答となる。もう一つは、試合開催に応じず、FIFAの決定がイラクにとっていかに不当なものであるか世界にメッセージを発することだ」

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