シリアの国内リーグ(プレミアリーグ)には、湾岸諸国のように国際的なスター選手がプレーするわけでもなく、レベルもそれほど高いものでもありませんが、ファンの盛り上がりという点では中東地域でもなかなかのものです。同時に、嘆かわしいことですが、試合中の暴力行為、ファンの暴走など、否定的な面も目立つリーグになってしまっています。
ところで、シリアのサッカーシーズンは、多くのヨーロッパ諸国同様、秋春制をとっています(シーズンは秋にスタートして翌年春に終わる)。2021/22シーズンは、リーグ戦の方はティシュリーン(ラタキア)の3連覇で5月に終了しているのですが、カップ戦(共和国カップ)は8月だというのに、まだやっているのです。
ようやく8月19日にダマスカスで、イッティハード・アハリー(アレッポ)対ワスバ(ホムス)との決勝戦が行われることになっています。新シーズン(2022/23シーズン)のリーグ戦は9月初旬に開幕予定なので、カップ戦で早々に敗退したチームはたっぷりオフ期間を取れている一方、勝ち残ったチームはほとんどオフなしにリーグ戦に突入することになります。なぜこんな変則的なスケジュールになったのかは、よく知りませんが、おそらくカタールW杯のアジア最終予選のために後先のことを考えずに、リーグ戦、カップ戦の日程を場当たり的に変更してしまったことが要因の一つだと思います。
そのカップ戦、国内有数の名門チーム、イッティハード・アハリーが久々に勝ち残っており、注目したいところなんですが、残念ながら、それ以上に、ピッチ内外で相変わらずくり返されている不祥事、暴力沙汰が、メディアでは大きく報じられています。
以下、二つの記事の大要を紹介します。
レフェリーへの野次で試合中断
ハッル・ネット 2022年8月6日配信記事より
腐敗と弱体化にさいなまれているシリアサッカーだが、スタジアムでは毎週のようにスポーツマン精神から逸脱する不祥事が発生している。
サポーターとレフェリー
8月5日に行われた、共和国杯(ジュムフーリーヤ・カップ)準々決勝第2戦のティシュリーン対ワフダの試合は、後半の開始時間が来ても、ピッチに審判団が現れなかった。地元放送局の報道によると、前半終了時、審判団がワフダ・サポーターから受けた暴行と野次に抗議して、ピッチに立つことを拒否したとのことだった。ワフダのクラブ会長がサポーターの行いについて遺憾の意を伝えたことで事態は収拾され、後半は15分遅れてキックオフされた。試合は1-0でティシュリーンがワフダを破り、ワスバ、イッティハード、ジャイシュ(ダマスカス)とともに準決勝にコマを進めた。
なお、後で紹介する「イナブ・バラディ」の記事によると、8月1日に行われた準々決勝初戦ではティシュリーン側のサポーターも騒動を起こし、クラブはサッカー連盟から処分を受けています。
敗退続きの代表とマーケット戦略の失敗
シリア代表チームは、とくにここ2年というものさまざまな大会での敗退が続いている。たとえば、2021年11月にヨルダンで行われたカタールW杯アジア最終予選のイラン戦では0-3で惨敗した。この敗戦を受け、シリアサッカー連盟理事会と代表チーム技術委員会は総辞職に追い込まれた。
同様に、サッカー連盟もここ数カ月間、さまざまな衝撃に見舞われている。たとえば最近では、シリア・プレミアリーグ(国内のトップリーグ)のテレビ放映権売却に失敗した。連盟の発表によると、今後3シーズンの、リーグ戦のテレビ、ラジオの放映権、スタジアムでの広告掲示枠の権利、リーグのネーミングライツについて公開入札を行ったが、入札者がいなかった、とのことだ。
また、SNS上では、連盟の幹部は、国内リーグでプレーする選手の市場価値を高め、湾岸諸国のリーグへの移籍をしやすくするために、ヨーロッパでプレーする選手のシリア代表入りを妨害しているとして、批判を強めている。
ティシュリーンとフトゥーワへの処分
イナブ・バラディ 2022年8月5日配信記事より
https://www.enabbaladi.net/archives/596266
シリアサッカー連盟は8月4日、国内の複数のクラブに対して注意処分及び制裁金を科す処分を行った。
ティシュリーン・サポーターが野次を発し、ピッチに発煙筒や空瓶を投げ入れたことに対し、クラブ側に50万シリアポンド(約117ドル)の罰金を科した。また、フトゥーワ(デリゾール)や複数のクラブに対しては、スタジアム内で国旗や、クラブの旗以外の旗の掲出を禁じるとともに注意処分とした。また、すべてのサポーターに対して、スタジアムで発煙筒を使用しないよう注意を促した。
これらの処分は、8月1日に行われた共和国カップ準々決勝第1戦、ティシュリーン対ワフダ戦、フトゥーワ対ワスバ戦での騒動を受けなされたものだ。
サッカーをはじめシリアのスポーツ界は、競技レベルの低下と「腐敗と縁故主義」のまん延で、広範な批判にさらされている。事が起こるたびに、ファンからは嘲笑まじりの批判コメントが波のように押し寄せ、リーグ戦を中止しろとの要求がなされる。昨シーズン(2021/22シーズン)もピッチでは多くのサポーターによる騒動が発生している。
また、シリアスポーツ総連盟(サッカー連盟ほか各競技連盟の上部機関)は、サッカー連盟が機能不全に陥っており、成績も不振が続いていること、さらには、それらの理由として、現在のシリア国内の社会情勢を言い訳にしているとして、批判されている。
シリアにおいてスポーツは、体制側にとって重要度はかなり低いとみなされている。体制側はスポーツを自らの存在を対外的にアピールできるツールのひとつ程度にしか考えていない。
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