今回紹介するのは、アル=サフィール紙が、2016年12月19日に掲載した、クウェートのスポーツ界のごたごたに関する記事(AFP配信記事)です。
クウェートでは権力内部の抗争により、スポーツが政争の具とされています。IOCやFIFAなどがこれを問題視し、クウェートの大会への参加資格を停止するまでになっています。現在行われているワールドカップ予選に、クウェートが参加していない(2次予選の途中で参加資格を失った)のもそれが理由です。
クウェートとサッカーの(好ましくない)話題といえば、1982年に行われたスペイン・ワールドカップでの得点取り消し事件でしょうか。本大会初出場を果たしたクウェートの1次リーグ2戦目のフランス戦で、いったん認められたフランスの得点が、現地で観戦していた当時のクウェート王子がピッチに乱入してレフリーに抗議、得点を取り消させたという前代未聞の出来事がありました(参照:【W杯トリビア】史上唯一の得点取り消し事件 – サッカー – SANSPO.COM(サンスポ))。クウェートは1次リーグ2敗1引き分けで大会を去っています。
クウェートの人たちには失礼なたとえとなりますが、現代社会に中世の論理で影響力を行使し、それがなぜか成功した奇跡的な出来事という感じでしょうか。
現在のクウェートの状況について。スポーツに政治が介入するのは珍しい話ではないと思います。しかし、あらゆる競技の選手たちがオリンピックやワールドカップなどの大会に参加できない事態を引き起こし、それでもなお収拾されないというのは、稀有なことでしょう。
とくに現在アスリートとしてピークを迎えているような選手のことを思うと、気の毒でなりません。
権力内部の抗争ですから、どちらの側が一方的に悪くて、正しいというものではないと思います。ただ、この記事を読むと一方の側のリーダーの経歴を否定的に紹介しています。また、両グループの親玉の対立は以前からあったことが記事では示唆されています。
元記事URL:
http://assafir.com/Article/520682/Archive
クウェートスポーツの危機、続く
2016年12月19日
アル=サフィール(レバノン)
クウェート・スポーツ界はここ数か月の間、国際大会への参加資格を停止されるという深刻な危機に陥っている。アナリストは、問題は王族の一部と政治家たちとの勢力争いにあると指摘している。
スポーツへの政治の介入によりあらゆる競技の国内外の大会からクウェートが締め出され、各種競技の代表チームや競技団体に打撃を与えている。
国際オリンピック委員会(IOC)が2016年のリオデジャネイロ・オリンピックへの、また、国際サッカー連盟(FIFA)が2018年のロシア・ワールドカップのアジア地区予選へのクウェートの参加資格を停止する措置を取る事態になっている。いずれも政府へのスポーツへの介入を背景になされたものだ。
クウェートの選手たちはオリンピックには参加した。だがそれは、オリンピック旗のもとでの個人資格での参加だった。フェハイド・アル=ディーハーニー選手は射撃競技の「ダブルトラップ」種目で金メダルを獲得したが、リオの表彰式で国旗が掲揚、国歌が演奏されることはなかった。
サッカーでは、FIFAがクウェートに対し、今月(2016年12月)23日までに問題を解決するようさらなる猶予期間を与えているが、できなければクウェートは2019年にUAEで行われるアジアカップの予選への参加資格も奪われることになる。
そういう措置が取られても事態は一向に変わっていない。スポーツの問題が権力闘争に利用されるようになっているというのがスポーツアナリストたちの一致した意見だ。
AFPはあるジャーナリストの意見として、「政権の様々な派閥がスポーツを自らの権力闘争に利用している」と伝えている。その闘争は資産家、政治家、スポーツ選手らをも巻き込んでいる。
複数のアナリストによると、2つのグループの間で綱引きが行われているという。第1のグループは、世界的なスポーツ界に影響力を持つ人物シェイク・アフマド・アル=ファハド・アル=サバーフやその兄弟のシェイク・タラール、その他の兄弟たち、あるいは国内のほとんどのクラブや競技連盟を支配下に置く彼らの支持者たちだ。
一方、第2のグループは、閣僚たちやサバーフ家の他のメンバーたち、さらにはビジネス界に影響力を持つ一族で国民議会議長のマルズーク・アル=ガーニムとその支持者たちによって構成されている。
国民議会はクウェートの国際的な制裁解除を試みているが、うまくいっていない。議会はさる6月、各競技連盟を解散する権限を政府に与える法整備のための必要な修正作業の実施を決めた。これは、スポーツに関する問題に政府の公的な介入を認める措置の導入で、国際的なスポーツ機関(訳注:IOCやFIFA)の要請に反したものである。
シェイク・アフマドとその兄弟タラール(訳注:上記の第1グループ)は国際的な支持を得ている。というのも、IOCもFIFAもサッカー連盟の運営介入のために設置された暫定委員会の承認を拒否しているからだ。
暫定委員会の行く末は、(2016年)12月初め、同委員会委員長が辞任したこともあり、混沌としている。
シェイク・アフマドは、シェイク・サバーフ・アル=アフマド・アル=サバーフ王子の甥。2001年に情報大臣任命により政府でのキャリアをスタートさせたが、2006年に野党議員に圧力をかけたことを理由に解任され、エネルギー省に異動した。3年後、経済問題大臣として国民議会に復帰したものの、2011年、汚職の疑いで議員2人から喚問を要求され辞任した。このとき喚問を要求した一人が、国民議会議長のマルズーク・アル=ガーイムである。
政治的な綱引きとは別に、複数のアナリストは、クウェート・スポーツの危機には、財務上の問題もあるとみている。「スポーツには巨額の資金が投入されているが、その一部は政治に使われている」のだ。
(AFP)