代表チームの健闘──つかの間の希望

今回紹介する記事は、ワールドカップ予選で、国民さえも驚く好成績をシリア代表が挙げていることに関する内容です。

2018年のロシアでのワールドカップ出場をめざすアジア第2次予選。グループEには日本の他に、シリア、シンガポール、アフガニスタン、カンボジアが入っています。現時点でトップは勝点16の日本で、シリアがわずか1点差の勝点15で続いています。両チームともあと2試合を残し、しかも両者の直接対決もありますが、昨年10月のアウェイ(といっても開催地は治安上の理由でオマーンのマスカット)での対戦で日本が快勝したことで、よっぽどのドジを踏まない限り、日本の首位通過はまず堅いところでしょう。

一方シリアでは、かれこれ5年にも及ぶ激しい戦争下であるにもかかわらず、予想外の好成績で沸き立っているようです。最終予選には首位チームの他、各組2位チームのうちの成績上位4チームが進めるので、現時点で、シリアの最終予選進出は有望で、国民の興奮をさらに高めているようです。

戦乱で疲弊する状況の中で、とてもサッカーどころではないという人びとがほとんどだとは思いますが、予想外の代表チームの躍進は、国民にとって、かすかではあるもののの、数少ない希望の光となっていることも事実のようです。記事中、ある女性サポーターが、人びとは様々な立場に分裂してしまったが、シリア代表をみんなで応援することによって、つかの間でもそんな状況から抜け出せている、と語っていることが印象的です。

記事の最後で、シリアが世界に誇るストライカー、オマル・アルスーマ選手についても触れられています。シリアサッカー連盟は彼の代表復帰が実現するよう努めているかのようなことが述べられていますが、その一方で、同選手はシリアの治安機関の指名手配リストに名前が挙がっているとの報道もあります。アルスーマ選手自身、反体制派支持者であることは有名な話なので、表向きはともかく、少なくても現在のアサド政権が続く限り、この選手の代表復帰は難しいというのが現状ではないかと思います。

なお、今回の記事は、ぼくのアラビア語能力では、読解がかなり難しい文章でした。翻訳の文章がいつもに増してこなれていないのはそのためです。逐次訳していくとかえって日本語としてわけのわからない文章になってしまう箇所も多く、適当に端折ったり、言い換えたりしています。文意までも変わってしまっているところはないと思います。

アラビア語は何年やっても難しいです。


元記事URL:

منتخب سوريا لكرة القدم: بطل من هذا الزمان! | الأخبار

 

Al-Akhbar紙
2015年12月23日
text リース・アルハティーブ

シリア代表、この時代のヒーロー!

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(写真 http://www.al-akhbar.com/node/248795 より)

最近の相次ぐ好成績により、サッカーのシリア代表チームは、失意と敗北があふれるこの時代のおいて、人びとに勝利の喜びをもたらしている。現実のブラックコメディのような状況を払拭できたわけではないが、シリア人たちは代表チームに応えるため、チームを支援する幅広いキャンペーンを始めている。

戦争勃発以降、シリア人に度重なる失望が襲いかかっている最中、サッカーのシリア代表は、2018年のロシア・ワールドカップの出場権をかけた予選で、再び輝きを取り戻した。現時点で5勝1敗という好成績で、グループで首位争いをしているのである。

シリア代表が勝ち取ったこの突然の「栄光」は、たとえそれが「サッカー」に限ったことだとしても、シリアの人びとを希望で興奮させている。ただし、この希望は、代表が現在の成績を維持することで、持続されているものに過ぎない。

今日の危機が始まり、一般の人びとと同様にサッカー選手たちも、政権側と反体制側に分裂してしまった。それ以降、サッカー好きのシリア人は、代表チームの存在を忘れ去っていた。

戦争が勃発した2011年以前の2年間、アルカラーマやアルワフダ、アルイッティハードといったシリアのクラブチームは、アジアのいくつかの大会で大きな結果を残していた。もし戦争が起こっていなければ、シリアサッカー躍進の象徴となっていたであろう代表チームの存在を、この分裂が押しつぶしてしまった。

その後、何人かのスター選手たちは、世界で最も人気のあるスポーツのプレーをする代わりに、デモやパレード、演説や声明を通して、さまざまな政治的潮流の隊列の先頭に立った。

「シリアサッカー連盟」は、芸術系やエンターテインメント系の公的団体と同様、この破滅的な戦争への対処を最優先しようとして混乱状態にある政府当局者の関心の外に置かれた。これも代表チームが解体してしまった結果である。

この状況は、2018年にロシアで開催されるワールドカップの出場権をかけたアジア予選において、ファンたちが、以前より強くなったシリア代表チームの出現に驚かされるまで続いた。カンボジア、アフガニスタンにはいずれも6対0で圧勝、シンガポールにも1対0で勝利した。日本戦では善戦したものの0対3で唯一の負けを喫したが、次のホームでのアフガニスタン戦では5対2で再び勝利した。

これら予選での勝利は、「祖国の戦争」が代表チームに影響を与えているなどとFacebook他SNSの書き込みが続いているのを見続けているシリアのファンたちを混乱から救い出した。

活動家たちはチームを鼓舞するため、シリア流の皮肉を効かせたキャンペーンを始めた。主にFacebook上で「ザミール・ワシーフ:ナアム、ザミール・ジョゼフ(「ワジーフくん」「はい、ジョゼフくん」)」( https://www.facebook.com/zamilwajih/ )というサイトで展開されている。

これは20年にも渡ってシリアのテレビ業界においてスポーツ解説者の座をほぼ独占してきた、ワジーフ・シュワイキーとジョゼフ・バシュールの二人のやり取りにちなんだものである。テレビ中継でのコメントの中で、彼らはこのサイトの名前と同じやり取り(「ワジーフくん」「はい、ジョゼフくん」)を毎度のように繰り返しているのである。

シリアのサッカーファンにとってこのやり取りというのは、二人の解説者が混乱したときに発するお馴染みのものだ。ゲームで代表チームが押されっぱなしになったとき、あるいはゴールを決められたとき、二人のうちのどちらかがもう一人にこう言って助けを求める。「ワジーフくん」、するともう一人が答える。「はい、ジョゼフくん」。会話の順番はこれと逆の場合もある。(中略)

ファンたちは代表チームをFacebookのたくさんの新しいサイトを通して勇気付けている。日本戦(訳注=2015年10月8日)の直前には、彼らは日本人サポーターに対し「心理戦」を仕かけるキャンペーン「シリア人の団結」を組織した。そのサイトではこんなスローガンが交わされている。

「シリアのマクドゥース(訳注=茄子にクルミやにんにく、唐辛子などを詰めた漬物。シリアの代表的な家庭料理)は日本の寿司に匹敵するぞ」
「やつらには本田がいる。しかしオレたちにもホンダーエ(家具などを運搬するときに使う小さな車)があるじゃないか」

だがこういった冗談も試合が近づくにつれて、祖国の代表のサポーターとしてふさわしい態度に転じ、ファーメーションや戦術に関する白熱した真面目な議論が展開することになるのである。

20歳代の若者シャーディ・サルマーンくんは本紙の取材にこう話している。「ぼくらは代表に恩義を感じているんです。ぼくらが他の国の人と同じように、この国の一員であることを代表が思い出させてくれたからです。シリアには、勝ったり負けたり競ったりする代表チームがあるんです」

あるサポーターたちは、現在の代表チームが祖国の人びとを結集する傘のようなものだと感じているようである。

対立する勢力の狭間でアイデンティティーを失い、帰属意識が引き裂かれたとき、サッカーのようなわかりやすい統合の象徴が、団結と保持をつなぎとめる糸となる。

熱狂的なある女性サポーターは本紙の取材に、「わたしたちは、少しずつ輝きを取り戻している代表を応援することで、わたしたちの関心のあること(訳注=つまりサッカーに関すること)については、一致団結して再結集するようになってきているんです。そしてつかの間であっても、わたしたちの生活をむちゃくちゃにしてしまった不毛な対立から抜け出せているのです」と話した。

シリア代表チームが最近勢いを取り戻したのは、次のような理由がある。代表運営がこの4年間に台頭してきた多くの若い世代の選手に依拠し、これにこれまでの代表経験のある多くの選手を融合させたことにある。

同時に、アラブ諸国など国外のクラブに所属している選手たちと代表招集のためにコンタクトを取り続けることで、帰国のために必要な環境を整えてきたことも理由である。また、選手たちの帰国の際やトレーニングキャンプに参加する際の治安問題、安全の問題に対処するためあらゆる条件、保証を整えてきたこともあげられる。

サッカー連盟の関係者は本紙の取材にこう答えている。「ほとんどの選手たちは代表に参加するための十分な準備ができている。また、その他の選手たちについても代表復帰を円滑にするためにコンタクトを取り続けている」

代表には、アラブ諸国の各リーグでプレーする多くの選手たちが参加している。ゴールキーパーのムスアブ・バルフース(オマーン・リーグ)、オマル・フリービーンとアラー・シュブリー(イラク・リーグ)などがいる。

一方、シリアのサッカーファンたちは、サウジアラビアのアルアハリーでプレーし、昨シーズンのリーグ得点王を獲得したオマル・アルスーマの代表合流を待望している。アルスーマは、サウジ代表でプレーするために帰化するというサウジ側からの提案について、これまでなんども拒否している。またアルスーマは、「自分の最優先順位はシリア代表でプレーすることだ」との意思をマスコミを通して何度も明らかにしている。また代表事務局ともチーム合流のためにコンタクトを取っている。このことはシリア代表事務局がこれまで何度も声明などで強調していることである。

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