先月末、イラクでイラク代表とサウジアラビア代表との親善試合が行われました。サウジ代表がイラクで試合をするのおよそ40年ぶりとのことです。今回の記事はそのことのもつ政治的意味合いについての記事。
どういう意味を持つのかは、記事本文を読んでいただくこととして、試合は、4対1でイラクの快勝という結果に終わりました。バスラにあるスタジアムには6万5000人の観衆が集い、大いに盛り上がったようです(ハイライト動画あり العراق يقسو على السعودية برباعية وديا – RT Arabic)。
記事でも言及されていたこの試合に招待されていたFIFA会長は、欠席でした。そのため、イラクサッカー連盟としての思惑(FIFAから課せられている国内での国際試合の公式戦開催を禁じる措置解除)は、少し外れたようですが、試合自体は成功したようなので、制裁解除に向けては一歩前進したのではないかと思います。
なお、記事の後半にジェイムズ・ドロシー氏という研究者が登場します。彼はこのブログで紹介したことのあるとても興味深いサッカー本の著者です。こういう形で名前を聞くのって、ぼくとしてはとてもうれしいものです。ただ肝心のこの記事でのドロシー氏のコメント、日本語訳があっているのかどうか、自信ありません(金と腐敗と抵抗と 中東サッカー魅惑の世界 – 中東 フットボールと人びと)。
元記事URL:
サウジ代表 40年ぶりにイラクに登場
掲載紙:シャルク・アウサト
掲載日:2018年2月27日
(小見出しは訳者によるもの *は訳注)
制裁解除求めるイラク
バグダッド(シャルク・アウサト):
イラクとサウジアラビアの関係がスポーツの力によって、重要な転換点にさしかかっている。両国の代表チームによるサッカーの親善試合が、バスラ県で行われるためだ。これは、「ザ・グリーン」(サウジアラビア代表)にとって、約40年ぶりにメソポタミアの国での試合となる。
サウジアラビア代表が最後にイラクで試合を行ったのは、1979年にまでさかのぼる。イラクで開催されたガルフカップに出場した以来のこととなる。この水曜日(*2018年2月28日)の親善試合は、サウジにとっては、ワールドカップ2018(今年6月ロシアで開催される)に向けての強化のための準備の一つとして行われる。また、この試合は、最近の両国の政治的接近を促す取り組みの一つとして、位置付けられている。
イラクは、国際サッカー連盟(FIFA)が課した国内での国際試合の公式戦開催を禁止する措置の解除を求めている。とくに、国内の治安状況が改善し、ダーイシュ(*「イスラーム国」)に対する「勝利」宣言を行ったあと、いっそう強く求めるようになっている。
FIFA会長を招待
イラク側は、禁止措置解除にとってこの親善試合が持つ意味の重要性を強調している。FIFAの広報担当者によると、スイス人のジャンニ・インファンティーノ会長は「2月28日の試合への招待状をイラクから受け取っている」という。
同広報担当者は、インファンティーノ会長は招待に応じるかどうか検討しているが、まだ決まっていないことを強調している。
FIFA会長の決断は、禁止措置の解除か継続かの方針を示すものになるとみられている。というのも、同会長は、昨年(*2017年)11月クウェートを電撃訪問し、その際2年前にFIFAがスポーツ活動に政治家が介入していることを理由に、クウェートに課していた制裁措置の解除を発表しているからだ。
制裁は去年一部緩和
イラクは、国内での国際試合の公式戦開催を禁止する措置の全面解除に向けて、基本的に湾岸諸国、とくにサウジの支援を当てにしている。FIFAは昨年(*2017年)、数年来続く試合開催禁止措置を一部緩和した。これにより、親善試合に限って、国内の3都市(南部のカルバラ、バスラ、北部のクルディスタン地域の中心都市アルビル)での開催が認められるようになった。
イラクの青年スポーツ省のアブドゥル・フセイン・アブターン大臣は先週、AFPのインタビューで、「どの分野においても政治が関係していないことはありません。(*今回の親善試合は)サウジにとって大きな重みを持つものですし、サウジチームがイラクにやってくることは私たちに取っても大きな意味があります」と述べ、こう続ける。
「この試合は、他の国の代表チームのイラク訪問への意欲をかきたてるものになると思います。また、国内での試合開催禁止措置の全面解除におて、助けとなるとでしょう」
また、イラクサッカー連盟のカーミル・ザギール氏も、「この試合は大きな意義を持つものです。それは、国内のスタジアムでの試合禁止を解除する上において大きな影響を持つものです」と話す。
湾岸諸国の支持とりつけるイラク
親善試合は昨年11月に、イラクの代表団がリヤドを訪問した際、イラクとサウジ間で結ばれたスポーツ協力協定に基づき行われるものだ。サウジ訪問は、過去数年間の不仲を経て両国の政治的接近の流れの中で行われた。
イラクとサウジのスポーツ分野での関係は、1980年代が黄金期だった。イラクはイランとの戦争中、ホームの国際試合開催の代替地としてターイフ市(サウジ西部の紅海に近い都市)を選んでいたほどだ。イラクの人びとは、今回のサウジのイラク訪問により、イラク訪問に関して湾岸諸国の代表チームが抱いている懸念や不安材料が取り除かれるのではないかと期待している。とくに、たとえば、最近クウェートサッカー連盟は、来月(*2018年3月)イラクのカルバラで開催予定だった4か国選手権に不参加を表明したことを謝罪している。
イラクは2月15日、他のアラブ諸国の代表チームから、サウジ同様、訪問する旨記されたレターを受け取っている。
イラクサッカー連盟と青年スポーツ省は、今回の異例の開催となる親善試合が、公式戦を招致できる能力がイラクにはあることを示し、FIFAの信頼を高める機会になると期待している。それゆえ、インファンティーノ会長の出席は、重大な意味を持つのである。
分岐点となる試合
中東地域のサッカーと政治の問題を専門とするジェイムズ・ドロシー氏は、FIFA会長の訪問は、「重要な意味を持つ、しかしそれは象徴的な意味合いでしかありません」と言う。
そして、このシンガポールのラジャラートナーム・スクール・オブ・インタナショナルの研究者は、こう付け加える。
「最も重要なことは、FIFAが制裁を解除するかしないかという点です。もしFIFAが解除すると、イラクは安全な国として格上げされることになるからです」(*このドロシー氏の発言の日本語訳は正しいかどうか自信ありません)
サッカーとしての重要性について言うと、今回の親善試合を今の時期に行うことについてはそれほど大きな意味はない。
イラク代表のバーシム・カーシム監督は、「この試合は、われわれにとって強化のためというよりも外交儀礼的なものです。しかし、イラクのサッカー界に対する影響は大きなものになると思います」と話している。