2月24日(2022年)に始まったロシア軍のウクライナへの侵攻に対して、多方面から国際的な非難が巻き起こっています。サッカー界も同様で、FIFA(国際サッカー連盟)とUEFA(欧州サッカー連盟)は共同でロシアのクラブと代表チームを全大会で出場停止処分にすると発表しました。これにより、カタールW杯へのロシア代表の出場の道は断たれました。また、ヨーロッパの多くのスタジアムでは、選手と観客によってウクライナに連帯するデモンストレーションが続けられています。
(下の写真:3月7日行われたイングランド・プレミアリーグ、トッテナム対エバートン戦のキックオフの前、1分間の黙祷が行われた)
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一方、大きく取り上げられることはありませんが、中東地域やアフリカの国の一部では、この現状を冷ややかにみている人々がいることも報じられています。今回紹介する記事もその一つです。
ぼく自身、ロシアの侵攻は国際法違反であり、即時ウクライナから撤退することを願っていますが、FIFA、UEFAの今回の決定にはいささか納得できないものを感じています。
本ブログでも紹介しましたが、2016年8月、セルティック(スコットランド)がチャンピオンズリーグ予選でイスラエルのクラブと対戦したとき、サポーターがスタジアムでパレスチナ旗を掲げ、「パレスチナに自由を」と叫んだことがありました。このとき、UEFAはセルティックに1万8000ユーロの罰金を課しています。スタジアムで政治的な意思を表明したことが処分の理由とされています(セルティック・サポーターが明るみにしたこと | シリアサッカー事情)。
しかし今、ヨーロッパ各地のスタジアムでは大量のウクライナ国旗がふられ、「ウクライナに平和を!」と叫ばれています。彼らの行為は罰せられないどころか、感動的なシーンとして世界中に拡散されています。パレスチナとウクライナで起こっていることになにか本質的な違いがあるとは思えません。
(以下の訳文は逐語訳ではなく概要です。原文の文意を変えない範囲で、適宜省略、補足を行っています)
「彼らはシリア人じゃないから」──ウクライナ侵攻で浮き彫りとなったサッカー界の二重基準
掲載紙:GOALアラビア語版
掲載日:2022年2月28日
執筆者:ハイサム・ムハンマド
URL:https://www.goal.com/ar/أخبار/ليسوا-من-سوريا-ازمة-اوكرانيا-تفضح-ازدواجية-المعايير-في-كرة/blt175e300278a6eb1b
(小見出しは訳者によるもの *訳注)
湧き起こるウクライナ連帯の声
数日前、ロシアによるウクライナへの侵攻が行われ、世界中で非難が沸騰している。人道を最優先にする観点から、世界はすぐさまウクライナとウクライナの人々への連帯を表明した。サッカー界もこの数日で明確な態度を打ち出している。
ラ・リーガ(スペイン)、プレミアリーグ(イングランド)などヨーロッパ各国のリーグの試合会場では、「NO WAR」のメッセージとともに、ウクライナ国旗がふられた。セリエA(イタリア)では抗議の意思表示として、各試合キックオフを5分間遅らせた。FIFAも動き出し、ロシアに対してW杯予選で国名、国旗、国歌を使用して参加することを禁じた(*その後、代表チームおよびクラブチームを全大会出場停止とする追加処分が発表された)。
さらに、世界的なスター選手、ポーランドのロベルト・レヴァンドフスキはチームメートとともに、W杯予選プレーオフのロシア戦でプレーすることを拒否すると表明。ジョゼップ・グアルディオラ(*マンチェスター・シティ監督)はオレクサンドル・ジンチェンコ(*マンチェスター・シティに所属するウクライナ代表選手)への支援を表明するとともに、ロシアの侵攻を非難した。また、セルビアやクロアチアのスター選手たちも、ユーゴ紛争での自らの苦難と重ねて戦争の悲惨さを語った。
エジルやアブトレイカはなぜ非難されたのか
これらの光景は、サッカーが人道主義の側に立つことを示すすばらしいものである。だが、同時に、これらの選手たち、クラブ、あるいは連盟の二重基準(ダブルスタンダード)を訝しむ見方もある。彼らは他の危機(紛争)に際しては口をつぐんでいたからだ。それどころか、当時、紛争の被害者に寄り添う立場を表明したものたちを非難し、制裁を加えさえしたものもいる。
メスト・エジル(*元ドイツ代表の主力選手。アーセナルなどでプレーし、現在はトルコのフェネルバフチェ所属)が中国新疆ウイグル自治区のイスラーム教徒が直面している危機について語ったことがあった。それはアメリカ、イギリス両政府が公式にジェノサイド(集団殺戮)と表現している人権侵害についてだった。
このとき、アーセナル(*エジルの当時の所属クラブ)は、クラブは、選手個人が発するコメントとは無関係だと距離を置く立場を示すと同時に、原則としてスポーツに政治を持ち込むべきではないとのべた。
フランクフルト戦(*ロシア侵攻直後の2月26日に行われたブンデスリーガの試合)で、ウクライナ国旗を模したキャプテンマークをまとってプレーしたレヴァンドフスキは、ユーロ予選でイスラエルと対戦したときは、パレスチナ問題を理由に出場を拒否することも、イスラエルが予選に出場することを非難することもなかった(*ユーロ2021の予選でポーランドはイスラエルと同組に入り、2019年に2度対戦し、レヴァンドフスキはいずれの試合にも出場している)。
2008年のアフリカ・ネイションズカップで、ムハンマド・アブトレイカ(当時のエジプト代表のスター選手)が、ガザへの連帯を表明するシャツを掲げたことがあった。現在、ウクライナと連帯する連盟(*FIFAなど)はこのとき、アブトレイカを「政治とスポーツを混同してはならない」と攻撃した。
西側メディアの本音?
政治とスポーツの混同に関する西側の二重基準は、CBSやBBC、テレグラフといった主要メディア(彼らだけではないのだが)の記者の言葉からもに理解することができる。
チャーリー・ダガタ(*CBS記者)は、これ(*ウクライナで起こっていること)はイラクやアフガニスタンではなく、文明化されたヨーロッパでの出来事なのだ、とレポートした。
また、あるウクライナ検事は、(*BBCの取材にこたえて)今回の犠牲者は青い目、ブロンドの髪を持つヨーロッパの人々だと思うと感情的な気持ちになる、と話した。
ダニエル・ハーナーン(*イギリスのジャーナリスト)は、(*テレグラフ紙に)今回の犠牲者はわれわれ同様、ネットフリックスやインスタグラムにアカウントを持つ人たちだ。彼らは遠い国、フランス公共放送のテレビで目にするシリアのような遠い国の貧しい人たち、ヨーロッパ人と同じような関心を寄せるに値しない人たちではないのだ、と書いた。
肌と色と瞳の色
すべてのヨーロッパ人が同じようなものの見方・考え方をしているというつもりはない。この数年で世界は狭くなり、その気になれば知りたいことを知ることができるようになった。だが、公的機関、主要メディアは、ヨーロッパ以外のもの西側以外のものはすべて、自分たちが関心を抱くに値しないものだとみなす見解に同調していることは、疑いようがない。
戦火によって犠牲となった「中東」や「北アフリカ」の人々は哀悼を表されることはない。なぜなら彼らは遠い国の人間で、ブロンドの髪も青い瞳も持っていないからだ。
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